事業のトップが参加すべきカンファンレス

UX Days Tokyoスタッフの土岡です。今回は、Webサイトを戦略から制作、運用まで支援しているコンサル型のweb制作会社、株式会社ベイジの代表取締役である枌谷 力さんに、昨年開催された UX Days Tokyo2016 についてインタビューしました。

自己紹介からお願いします。

株式会社ベイジの代表をやっています。元々はwebデザイナーでしたが、現在の職務内容は、webサイトのプロデュースからマーケティング戦略の立案、データ解析、企業のUXデザインとその支援、さらにはUIデザインやコピーライティングなどの実務、その他ブロガーや営業スキル向上のための講師など、デザインに関わる周辺領域も含めて、幅広く関わっています。

参加しようとした動機は何ですか?

UX系のセミナーやイベントは年に1~2回程度しか行かないのですが、海外のゲストが出演するのは珍しいと感じ、しかも豪華なラインナップだったため、興味を持って参加しました。

特に私がUX、というかユーザ・エクスペリエンスという考え方に強く関心を持つキッカケとなったのが2005年に日本でも発売された書籍『ウェブ戦略としての「ユーザーエクスペリエンス」』だったのですが、この著者であるJesse James Garrett(ジェシー・ジェイムス・ギャレット)さんが参加されるというのが、理由としては一番大きかったです。


書籍:ウェブ戦略としての「ユーザーエクスペリエンス」

UX Days Tokyo2016に参加されてどうでしたか?

ギャレットさんのお話が聴けたのはもちろん良かったのですが、それ以外にも狭義のUXの概念に囚われすぎず、情報設計やストーリー作りなど、関係する幅広い領域に携わる方の生の話が聴けて、満足度が高かったです。

特にGoogle VCのDaniel Burka(ダニエル ブルカ)さんのデザインスプリント、Chris Noessel(クリス・ノッセル)さんのAI(人工知能)の話は、本題であるUXのこと以上に、興味深く聴けました。

中でも心に残ったプレゼンは?

Daniel Burka(ダニエル ブルカ)「5日間でプロトタイプと試作品を設計する方法」ですね。本題はデザインスプリントという手法の話で、それ自体はどういうものかはだいたい把握していましたが、実際に様々なスタートアップの支援を行っているGoogleの方の話を直接聴けたことはとても貴重に感じました。

また、プレゼンではないのですが、質疑応答の中で、メインオーガナイザーのClearleftのアンディ氏が、「必ずしもシリコンバレーがすごい、日本は遅れているわけではなく、デザインの現場で起こっている問題は、どこの国でも大差ない。シリコンバレーの人が特別な魔法を使えるわけではない。日本の方と同じように、人間関係などのごくありふれた問題や、バカバカしいとさえ思えるような問題を抱えて、悩みながら仕事をしている。」といったようなお話をされていたのも、非常に印象的でした。

プレゼンを聞いてからの変化はありましたか?

AI(人工知能)の話に関しては、自分の知らない話が多く、考えを改めるキッカケになりました。ナローAIとジェネラルAIという考え方があり、それぞれでできることがまったく異なる、世の中のAIにまつわる情報はこれらが混在して語られていることも多い、ということを知りました。

この認識は、AIに関する情報に触れる時に、その妥当性や真偽を判断するうえで、大きな影響を与えています。

業務に生かされていることは?

業務のTIPSのような内容ではなかったので、直接何かの仕事にすぐに影響を与えたわけではありませんが、UX Days Tokyoで知った話や、それをキッカケに集めた情報などが、クライアントと打ち合わせをしたり、社員とコミュニケーションをする際の引き出しの一つにはなっています。

先程のシリコンバレーやAIの話等は、よく話の引き合いに出している気がします。イベント終了後の懇親会で登壇者の方により突っ込んだ話をする機会もありますし、知的好奇心が強い方なら、UX Days Tokyoの参加を通じて、知識を厚く、深くすることができるのではないかな、と思います。

UX Days Tokyoには、どんな人に参加すると良いですか?

最近のUXの大きな課題として、組織としてのUXやデザインにコミットできているか、ということがあるかと思います。

会社や組織がUXやデザインに理解がないと、どんなに優秀なデザイナーが、どんなに優れた理論を用いてアイデアを出しても、結局それはユーザ体験を良くする方向に行かないというか。リーダーに積極的な理解がないことは、組織全体の体質に伝染します。例えばワークショップなどを開催しても、参加率が低かったり、参加中に仕事のメールや電話などで中座したりして、UXに関する取り組みの本来の成果を生み出せなかったりします。

UXの成果を最大限引き出すには、組織をまとめる立場の人の協力や理解が非常に重要なんです。そのため、企業や事業のトップ、あるいは管理者等、組織をまとめる立場の人がこういったイベントに参加すると良いのではないかと感じます。今年のUX Days Tokyoのテーマは「組織で作るUX」ということですが、これは現在現場で起こっていることにとても合ったテーマだな、と感じました。

デザイナーなどの現場が勉強して伝えていくことも大事ですが、事業を引っ張る方たちがUXやデザインに関する知識に直接触れていただくことも重要です。そのことに少なからず影響を与えるのではないかと、期待しています。

UXに関してオススメの本はありますか?

UXが主題の本ではないのですが、昨年出会った『ファスト&スロー(上)(下) あなたの意思はどのように決まるか? 』は、UXに関わる方は必読ではないかと思います。心理学者にしてノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンという方が書かれた本で、人間のバイアスについて語られています。

端的に言えば、人は、バイアスによって歪んで捉える傾向があるという内容です。UXの根源的なテーマは「人の理解」だと思うのですが、人を理解するには、その認知プロセス、偏向性、本能的な心理構造などの理解も不可欠だと思います。その数々のヒントがいただける書籍です。

例えば、カスタマージャーニーマップを作っても、人の心理の根源にあるバイアスへの理解がないと、インサイトまで踏み込むことができず、表面的なニーズの理解に留まり、そこから有用なアイデアが出てこないようにも思います。

この内容は、UXだけではなく、データの見方や情報の処理の方法、プレゼンやコミュニケーションの方法などにも共通するものです。データドリブンマーケティングなどを推進するうえで不可欠な考え方ではないかと思います。

この書籍で語られている内容は社内に浸透させたいと、本の内容をPowerPointにまとめ、自分たちの身近で起こっていることも加筆して、社内で勉強会を行ったりもしました。それくらい、自分の中では印象に残っている本です。

業務で気をつけていることはありますか?

なるべく客観的で、フェアな視点を持つことです。プロジェクトやフェーズにもよりますが、私自身は、コンサルタント、マーケター、UXデザイナー、UIデザイナーなど様々な立場でお客さんと関わっています。

その際に、自分の職務領域、例えばUXデザイナーだからUXだけ、UIデザイナーだからUIだけ、という偏った視点で考えるのではなく、本来の目的であるビジネス上の成果という視点から、その会社の経営者になったつもりで、できるだけフェアに、客観的に考えることを意識しています。例えばその考えが、UXデザイナーにとっては面倒くさかったり、UIデザイナーにとっては都合の悪いことであっても、事業にプラスになることであれば、きちんと「こうすべきだ」と提言するとかですね。私はデザイナー出身なので、ディテールの大切さは十分に理解していますが、ディテールに拘りすぎると、本質的な目的を忘れて、自分の職務にとって都合のいい判断を優先させてしまいがちなので、全体のバランスを見て、フェアに、客観的に、ということをいつも意識して仕事をしています。

枌谷さんにとって、UXとは何ですか?

UXの厳密な定義は人それぞれと思いますが、私の場合、ビジネスの文脈の中でUXを扱うことが多く、必然的にUXはマーケティングの一部であり、一手段である、という考え方を持っています。もちろん、公共性の高いサービスでは、UXとマーケティングは別物になると思いますが、ビジネス文脈でUXを用いるなら、それはマーケティング戦略の配下に位置づけられると考えています。つまりマーケティング戦略と矛盾するUXは、例えUX的に正解であったとしてもそれは採用すべきではない、ということになります。

例えば、全品90%オフで、ワンクリックで購入でき、すべてが当日発送され、使い終わった段ボールも専門スタッフが無償で回収してくれるようなECサイトがあれば、それはUXとしては最高でしょうが、事業としては成り立たないですよね。これは極端な例ですが、こういった実現性のないことや、あるいは実行はできるがマーケティング的に対して成果が出ないことを考えるのは、UXが本来求められていることではない、という意識は持っています。当然ながら、UX系の施策に対して、マーケティングKPIを設定し、施策実施後にそれを検証することも大事だと感じます。そういう意味では、明確な目標設定や効果検証を行っていないUXというのは、基本的にはダメなのかな、などと思ったりはしています。そしてもちろん、UXデザイナーはUXの知識だけあればいいわけではなく、マーケティングの知識も求められるものだと思います。

 

インタビューを終えて・・・

たくさんの業務をこなされながらも様々な視点から物事を考えていらっしゃり、また経営者という責任のある立場で業務している枌谷さんにお話を聞けたことは大変貴重な機会でした。
枌谷さんがおっしゃるように、今回のUX Days Tokyo2017のテーマである「組織で作るUX」については、是非とも決済する立場の方々にカンファレンスに参加いただき、肌で感じていただきたいなと思います。私も受託の立場で日々業務をしていて感じますが、現場がいくら合意を得てプロジェクトを進め考えていても、決済する経営陣の意識や知識がないとそのプロジェクトは進まないどことか、なくなってしまうケースもあります。そのときは、すごく残念ですし、もったいないと感じる場面さえあります。すごくその部分に共感したインタビューでした。

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