低位安定とは、システム開発を任せる企業と請け負う企業が互いに頼り合い、目先の利益を得る一方、双方に必要な力が育たない関係が続く現象である。
たとえば、小売企業が店舗アプリの開発と、公開後の不具合の修正や手直し(保守)を、同じ開発会社に任せ続ける場面を考える。小売企業は費用を抑えられ、開発会社は継続的な仕事を得られる。しかし、小売企業は不具合のどこをどう直すかの判断まで開発会社に任せきりにしているため、社内にシステムの中身を理解して判断できる人が育たない。開発会社にとっても、同じ会社から仕事が途切れず入る取引は、リスクが低く長く続く安定した商売になる。黙っていても次の仕事が入るので、開発会社には技術を磨いて短時間で仕上げようとする理由が乏しいまま、取引が続いている。
この言葉は、日本のシステム開発の取引について、デジタル技術を使った競争に対応しにくくなる問題を表している。
取引が続いても力が育たない
小売企業の社内に判断できる人が育たないのと同じように、開発会社の側にも力が育ちにくい理由がある。開発会社が作業にかかった労働量に応じて代金を受け取る場合、同じ仕事を短時間で終えると売上が下がる。
双方が今の取引から利益を得ていても、次に必要な知識や技術を身につけられるとは限らない。低位安定で問題になるのは、この関係が変わらないまま続き、双方が競争に必要な力を身につけられなくなる点である。外部に開発を任せていることだけで、低位安定に当たるわけではない。

語源・提唱者
経済産業省は2021年8月、デジタル産業の創出に向けた研究会の報告書「DXレポート2.1」を公表した。DXは、デジタル技術で事業を変えることを指す。同レポートは、開発を任せる側と請け負う側が互いに頼り合う関係によって、デジタル時代に必要な力を身につけられなくなっていると指摘した。
任せる側は費用を抑え、請け負う側は低いリスクで長く続く仕事を得ている。同レポートは、こうした関係を「低位安定」と表現した。「低位」は、双方の力が低い水準にとどまっていること、「安定」は、互いに得をしているので、その関係が崩れずに続くことを表す。
対応が遅れ、技術に投資しにくい
冒頭の小売企業では、アプリの中身を自社で把握できず、変更を判断しにくくなる。開発を任せきりにして対応する力が育たないため、経営の判断や対応が遅れ、顧客に価値を素早く届けられなくなる。
開発会社では、仕事の効率を上げることや、技術開発に資金を使うことが難しくなり、新しい力を身につけられなくなる。依頼された開発を請け負うことが主な事業である会社には、別の難しさもある。開発会社が顧客の自社開発を支援すると、将来自社に依頼される仕事が減ることになる。

ただし、外部に開発を任せること自体が、力を身につける妨げになるとは限らない。ブラジルの保険会社4社を調べた研究は、委託をどう使うかに注目した。委託を通じて外の知識を社内に取り込み、新しいものを生み出す力を伸ばす使い方がある。この研究は、委託をそのように使わず、任せるだけで終わる企業は、人や資金の使い方、対応の速さ、競争力で大きく損をしうると結論づけている。
開発の任せ方を双方で見直す
冒頭の小売企業と開発会社が今の取引を見直すなら、双方は互いの成長を妨げていないかを確かめる。経済産業省の「DXレポート2.1」は、双方にこの構造の認識と、関係を変える方法の検討を求めている。同レポートは開発会社に、システムをつくるだけでなく、発注側が事業を変えていく取り組みを継続して支援することを求めている。
外部への委託を中心としていた企業が、自社内で開発する方針へ移った事例がある。
その企業では、現場と開発担当者の距離が遠く、アプリ開発に時間がかかり、意思疎通にかかる費用も増えていた。まず、現場の要望が開発側に届くまでに、どのようなやり取りをしているかを確認する。そのうえで、自社内に開発チームを置く方法も検討する。
これは事例をもとにした当てはめであり、低位安定から抜け出す効果を確かめた手順ではない。
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