エージェンティックRAGとは、AIが回答を考える際に、どこに情報を探しに行き、どんな言葉で検索するかを自分で決め、見つけられなければ何度も方法を変えて探しにいく仕組みである。
決まった範囲を一度だけ検索するRAGでは答えが出ない質問にも、答えに必要な資料を集め直して答えられる点が利点である。
語源・提唱者
RAGという考え方は、2020年5月にPatrick Lewis らが論文で示した。その後、RAGが実務で動き始めると、弱点も見えてきた。オーストラリアのディーキン大学の研究チームは、2024年1月の報告でRAGのつまずきどころを挙げている。そのひとつが、「答えの書いてある文書があるのに、検索の上位に入らず拾えない」ことである。
探し方をAIに任せる形は、この弱点を補う方法として広がった。2024年1月には、RAGの開発基盤を公開しているLlamaIndexの公式ブログが、この形を「Agentic RAG」という呼び名で紹介している。2025年1月には、Aditi Singh らの調査論文が、RAGの工程に自分で判断するAIを組み込んだものとしてエージェンティックRAGを定義した。
一度の検索では答えが見つからないことがある
エージェンティックRAGの土台にあるのは、RAG(Retrieval-Augmented Generation、検索拡張生成)という技術である。
AIは学習した時点までの知識しか持たないので、そのままでは社内の規程のような公開されていない資料について答えられない。RAGは、質問を受けると、あらかじめ決めておいた資料の中から関係のありそうな文書を検索し、それを読んでから答えを作る仕組みである。「育児休業は何か月前までに申請するか」のような質問なら、この探し方で十分に答えられる。
しかし、RAGには弱点がある。探すのは一度きりで、拾った文書で答えに足りるかどうかを確かめないことである。困るのは、たとえば2つの資料を見比べないと答えが出ない質問である。社内の規程について答えるAIに「育児休業の申請期限は、去年と今年でどう変わったか」と聞いたとする。人間なら、去年の規程と今年の規程をそれぞれ開き、申請期限の項目を読み比べるだろう。

ところが、RAGは「去年」「今年」「規程」といった言葉をまとめて1回だけ検索するので、去年と今年のどちらかの規程を拾い損ねることがある。片方の規程しか読んでいないAIは、何が変わったかを答えられない。
次に何を調べるかをAIが決めて動く
エージェンティックRAGでは、AIが「次に何を調べるべきか」を自分で決める。先ほどの質問なら、AIは次のように動く。
- 去年の育児休業の規程を探す
- 今年の育児休業の規程を探す
- 拾った文書の両方に申請期限が書いてあるかを確かめる
- 書いていなければ、探す言葉を変えてもう一度探す
- 両方がそろったら、見比べて答える
人間が資料を調べるときの動きに近い。AIは検索して終わりにせず、拾った中身を確かめてから次の一手を決める。

「エージェンティック(agentic)」は、AIが目的に向けて自分で手順を決めて動く性質を指す。検索の仕組みを提供するWeaviateは、エージェンティックRAGでAIが引き受ける判断を4つに整理している。
- そもそも資料を探す必要があるか
- どこを探すか(社内の文書か、Webか、業務システムか)
- どんな言葉で探すか
- 拾った資料で答えられるか、探し直すか
AIに探し方を任せれば必ず良くなるわけではない
探し方をAIに任せる方法は、どんな質問にも効くわけではない。2026年6月の比較研究は、先ほどの育児休業規程の例でAIがやった「質問を分けて、それぞれ探す」動きを取り出し、質問の種類によっては、必要な文書を拾える割合がかえって落ちることを確かめた。
精度が落ちる質問とは「ナミビアの初代大統領の後を継いだのは誰か」のように、まず初代大統領が誰かを調べ、その答えを手がかりに次の文書を探さないと答えが出ないようなものである。
研究チームは、その理由を、質問を分けると元の質問の手がかりが抜け落ちやすいためだと見ている。たとえば、この質問を「ナミビアの初代大統領は誰か」と「その人の後を継いだのは誰か」の2つに分けたとする。後ろの質問だけを見ると「ナミビア」という手がかりが抜け落ちて、「後を継いだ」という言葉だけが残る。すると、ほかの国の大統領や会社の後継ぎについての文書まで拾ってしまう。
また、答えが返ってくるまでの時間もかかるようになる。1問に答えるまでの平均時間は、質問を分けるだけで2倍から3倍以上に延びた。拾った結果を見直して探し直す動きまで足すと、大統領の例のような問題では17秒から104秒と、およそ6倍になった。この研究は、探し直す仕組みをすべての質問に使わず、手間に見合う質問を選んで使うべきだと結論づけている。
RAGとエージェンティックRAGのどちらを使うかをAIに判断させる
2024年3月のAdaptive-RAGという研究は、質問によって向いている探し方が違うことに目をつけた。そこで、まず小さなAIが質問の難しさを見立て、次の3つから探し方を選ぶようにした。
- 探さずに答える
- 一度だけ探す
- 探し直しながら答える
難しい質問にだけ手間のかかる探し方を使うので、簡単な質問には素早く答えられる。
このように任せる範囲を広げることもまた、良し悪しがある。2026年3月の調査論文では、AIが途中で拾った間違いを次の検索に持ち込み、間違いが膨らんでいくことや、探しているうちに元の質問から少しずつずれていくことがあると述べている。どこまでをAIに任せるかは、作り手が慎重に決めておく必要がある。
関連用語
- ベクトル検索
- マルチエージェントシステム
- コンテキストエンジニアリング