マタイ効果(Matthew Effect)とは、先に有利な立場を得た側へ評価やお金がさらに集まることで、時間とともに格差がどんどん広がってしまう現象である。社会学では、最初の有利さが次のチャンスを呼び込むこの流れを「累積的優位(cumulative advantage)」と呼ぶ。マタイ効果は、その流れの結果として生まれる「持つ者と持たざる者の開き」を指す。
たとえば、通販サイトでレビューが200件ついた商品と、3件しかつかない商品が並ぶ場面を思い浮かべるとよい。買い手は件数の多い方を選び、その商品にまた1件レビューがつく。中身の差が変わらなくても、先に注目を集めた側だけが注目をさらに増やす。

実力で差が開くわけではない
この現象で大事なのは、差を広げているのが実力そのものではない点である。人は中身を一つずつ確かめる代わりに、レビュー件数や引用された回数のような「すでに集まった数」を、品質の目印として使う。だから数の多い側が選ばれ、選ばれたことでその数がまた増える。この繰り返しを何度も通れば、成果の差は10倍にも100倍にも開く。
評価する側は、限られた時間で決めなければならない。そこで、これまでにどれだけ集めたかという実績を手がかりにする。研究費を審査する人は過去の論文数を見て、採用の担当者は前職の知名度を見て、買い手はレビュー件数を見る。どれも中身を一つずつ確かめる手間を省く工夫である。しかしその工夫が、すでに持っている側へ配分をさらに寄せる。
語源・提唱者
マタイ効果という名前をつけたのは、アメリカの社会学者Robert K. Mertonである。1968年、科学誌『Science』に発表した論文The Matthew Effect in Scienceでこの言葉を使った。マートン氏はコロンビア大学で、科学者の世界を社会学の目で研究した人である。

ロバート・K・マートン (Photo by Pictorial Parade/Getty Images)
名前の由来は、新約聖書のマタイによる福音書25章29節にある。「おおよそ、持っている人は与えられて、いよいよ豊かになるが、持っていない人は、持っているものまでも取り上げられる」という一節が、この現象をそのまま言い当てている。
Mertonがこの論文で扱ったのは、科学者の業績の評価だった。ノーベル賞受賞者への聞き取りから、彼は「有名な科学者は貢献の割に大きすぎる功績を受け取り、無名の科学者は小さすぎる功績しか受け取らない」と述べた。共著の論文では、読み手が有名な研究者の名前だけを覚える。別々に同じ発見をしても、有名な側が発見者として残る。受賞者自身も「人々は論文で私の名前を見ると、それだけを覚えて他の名前を覚えない」と語っている。
続編にあたる1988年の論文The Matthew Effect in Science, IIで、マートン氏はこの現象を累積的優位という言葉で整理した。あわせて、この考え方が経済学・教育・行政といった他の分野へ広がった経緯も記している。
この続編には、皮肉な打ち明け話も載る。1968年の論文が使った聞き取り資料は、当時大学院生だったHarriet Zuckermanの調査から得たものだった。マートン氏は脚注で「あの論文は明らかに共著として世に出すべきだった」と自ら書いている。マタイ効果を論じた論文そのものが、無名の側の貢献を見えにくくするというマタイ効果の実例になっていた。
小さな差が雪だるま式に広がる
差が広がるとき、次の3つの働きが順に噛み合う。
- 数の多さを品質の代わりに読む:評価する側は中身を確かめる時間を惜しむため、レビュー件数・引用された回数・フォロワー数といった「すでに集まった数」を品質の目印にする
- 限りある資源が実績側に寄る:予算・採用枠・検索結果の上位表示など、数に限りのある資源を配るとき、配る側は失敗を避けて実績のある側を選ぶ
- 得られた成果がさらに成果を作る:一巡ごとに得た資源が次の成果を押し上げ、その成果がまた次の配分を呼ぶ
3つ目の流れを何度も繰り返すと、成果は似たような数字には落ち着かなくなる。ごく一部が全体の大半を取る、極端に偏った形に変わる。ネットワーク科学者のAlbert László Barabásiらは1999年、ウェブのリンクのつながり方も同じ形に偏ると示した。新しく生まれたページは、すでにリンクをたくさん集めているページにつながりやすい。彼らはこの性質を優先的選択(preferential attachment)と名づけた。
教育の分野にも同じ広がりが見つかる。心理学者のKeith E. Stanovichは1986年、読む力の伸び方にもマタイ効果が働くと論じた。言葉をたくさん知っている子どもは文章を楽に読めるので多く読み、読むほど知っている言葉をさらに増やす。逆に最初でつまずいた子どもは読む量が減り、差は学年が上がるほど開く。出発点のわずかな差が、その後に読む量の差になり、学ぶ機会そのものの差に変わる。
人気の表示が人気を作り出す
画面に人気の数字を出すという設計の判断そのものが、結果の格差を作る。これを実験で確かめたのが、社会学者のMatthew Salganikらが2006年に『Science』で発表した人工的な音楽市場の研究である。
実験では、合計14,341人の参加者が無名バンドの曲を試聴し、気に入った曲をダウンロードした。研究チームは参加者を2つの条件に分けた。他人のダウンロード数を見せない条件と、見せる条件である。後者はさらに8つの独立したグループに分かれ、参加者は自分がいるグループの中の数字だけを見た。8つのグループは同じ曲目から出発し、互いに影響し合わない。
結果ははっきりしていた。8つのグループすべてで、数字を見せない条件より人気の偏りが大きくなった。しかも同じ曲が、グループによって上位にも下位にも動いた。つまり、曲の良し悪しで偏っているわけではないことを証明した。

この結果は、実務に2つのことを突きつける。ひとつは、ランキングやダウンロード数の表示が、ただの情報提供ではないという事実である。それは勝者を作り出す仕掛けとして働く。もうひとつは、上位に並んだものを買い手が品質の高い順に選んだわけではない、という事実である。ランキングの上位を「市場が下した評価」として読むと、判断を誤る。自分たちの画面設計が押し上げた数字を、外から来た事実だと取り違えてしまう。
新しい出品に最初の一押しを配る
マタイ効果への対処がいちばんはっきり効くのは、出品者と買い手をつなぐ場(マーケットプレイス)で、検索結果の並び順を決める場面である。
売上順だけで検索結果を並べると、上位の顔ぶれは変わらなくなる。新しく参加した出品者は実績がないので上位に出られず、上位に出られないので実績も貯まらない。この「実績がないから買い手が選ばず、選ばれないから実績もつかない」入口の詰まりを、実務ではコールドスタート問題と呼ぶ。そのままにすると、新しい出品者は稼げないまま辞めていく。買い手から見える選択肢も減っていく。
大事なのは、最初の露出を運任せにせず、こちらから配ってしまうことである。具体的には次のように手を打つ。
- 枠を切って配る:検索結果の上位10件のうち2件を、出品から30日以内でレビューが0件の商品に固定で割り当てる
- 数以外の手がかりを添える:レビューがまだない商品には返品保証や配送予定日を並べ、買い手が件数以外の材料で選べるようにする
- 件数の重みを弱める:レビューは件数だけでなく平均点と直近の投稿日も並べ、古い件数の多さだけが強く見える状態を崩す
効果は「新しい出品者が最初の注文を受けるまでの日数」で測るとよい。この日数が短くなれば、入口の詰まりが実際に緩んだと判断できる。売上全体への影響が心配なら、一部の商品カテゴリだけで先に試す。手を打たなかったカテゴリと比べて売上が落ちていないかを確かめてから、全体に広げればよい。