アテンションエコノミーとは、情報があふれる一方で、人が使える時間や注意には限りがあるため、人の注意を集めること自体が価値を持つようになった経済のしくみである。
たとえば、動画サービスや交流サイト(SNS)の多くは無料で使える。そのかわり、利用中に広告が表示される。利用者はお金を払う代わりに、自分の時間や注意を提供することで、そのサービスを利用しているともいえる。
情報ではなく、人の時間が価値になる

今は、情報を作ったり届けたりすることが、以前よりずっと簡単になった。
記事、動画、SNSの投稿などは、次々と作られ、いくらでも増えていく。一方で、人が1日に使える時間は増えない。
つまり、情報は増え続けるのに、それを見るための時間は限られている。
そのため、今度は「どれだけ多くの情報を届けられるか」ではなく、「どれだけ人の時間や注意を集められるか」が重要になった。
たとえば、広告を出す企業は、人に広告を見てもらうためにお金を払う。サービスを提供する企業は、利用者に長く使ってもらうことで広告を見てもらったり、商品を買ってもらったりする。
無料のSNSや動画サービスで「利用者自身が商品になっている」と言われるのは、この関係を指している。
こうなると、サービスの作り方も変わってくる。
次の動画が自動的に始まる。画面を下にスクロールすると、次々に新しいコンテンツが出てくる。通知が届いて、またアプリを開きたくなる。
これらはすべて、「もう少し見たい」「もう少し使いたい」と思わせ、サービスから離れにくくするための仕組みともいえる。
語源・提唱者
「情報が足りない」のではなく、「見る時間が足りない」。この考え方は、突然生まれたものではない。
1971年、経済学者で認知科学者のHerbert¥ハーバート¥ A¥エー¥. Simon¥サイモン¥ は、すでにこの問題を指摘していた。
当時、企業ではコンピューターを使って、たくさんの情報を集めて管理職に届ける仕組みが作られていた。
「管理職には情報が足りない」と考えて、報告書をどんどん増やしていった。しかし、情報が増えるほど、今度は「それを読む時間」が足りなくなる。
Simonが指摘したのは、まさにこの問題だった。
情報が増えれば増えるほど、それを見る人の注意が必要になる
つまり、問題は「情報が足りないこと」ではなく、「増え続ける情報を見る時間や注意には限りがあること」だった。

Simonが考えていたのは、単純に「もっと情報を届けよう」ということではない。
必要な情報をすべて届けるのではなく、必要な情報を、できるだけ少ない時間で受け取れるようにすることが大切だと考えたのである。
「アテンションエコノミー」という言葉が広く知られるようになったのは、1990年代に入ってからである。
1997年、Michael Goldhaber が Wired 誌の記事で、これからの経済では、お金だけでなく「人の注意」が重要になると指摘した。
2001年には Thomas Davenport らが同じ題名の書籍を出し、、経営の分野でも広く知られるようになった。
インターネットやSNSの普及によって、情報はさらに増えた。
その結果、「どうやって情報を届けるか」だけでなく、「どうやって人に見てもらうか」が、サービスやビジネスにとって大きなテーマになった。
数字が増えたとき、利用者の時間はどうなった?
この考え方を持っていると、サービスの数字を見るときにも違った見方ができる。
たとえば、
- サービスを使う時間が増えた
- 1日にアプリを開く回数が増えた
- 通知を開く人が増えた
こうした数字は、一見すると「サービスが良くなった」と思える。
しかし、本当にそうだろうか。
使いやすくなったから利用時間が増えたのかもしれない。一方で、単にサービスから離れにくくしたことで、利用時間が増えた可能性もある。
たとえば、利用時間が10分増えたとする。
その10分で利用者のやりたいことが早く終わったのなら、良い変化かもしれない。
でも、特に目的もないまま10分長く見続けていたのなら、利用者の時間を10分多く使わせただけかもしれない。
だから、数字が増えたときには、
「この数字が増えたことで、利用者に何が起きたのか?」
を見る必要がある。
利用者にとって
「自分は何に、どれくらい時間を使ったのか」を考えられる。
たとえば、スマートフォンには、アプリをどれくらい使ったかを確認できる機能がある。
サービスを作るチームにとって
「使いやすくした結果、利用時間が増えた」のか、
「離れにくくした結果、利用時間が増えた」のかを区別できる。
ビジネスにとって
短期的に利用時間を増やすことだけを目指すと、利用者に嫌われてしまう可能性がある。
広告を閉じにくくしたり、動画を自動再生したり、通知を何度も送ったりすれば、短期的には数字が伸びるかもしれない。
しかし、利用者が「このサービスはしつこい」と感じれば、通知を切ったり、アプリを削除したり、別のサービスに移ったりする。
短期的に数字を伸ばす方法が、長期的にも良い方法とは限らない。
数字の隣に「利用者に何が起きたか」を書く
この考え方は、サービスの指標を決めるときにも使える。
たとえば「利用時間を増やす」という目標を立てるなら、
「利用時間が増えることで、利用者には何が起きるのか?」も一緒に考える。
「通知の開封率を上げる」なら、「通知が増えることで、利用者が中断される回数は増えないか?」と考える。
つまり、数字だけを見るのではなく、その数字が増えたことで、利用者の時間や行動がどう変わったのかを見る。
これは、UXを考えるうえでも重要な視点である。
施策を検討するときに、「これは、利用者の時間を何分使うことになるのか?」と一度考えてみる。
数字を伸ばすことだけでなく、その数字の裏側で、利用者が何を得て、何を失っているのかを見る。
それが、アテンションエコノミーをUXの視点から考えるということである。
関連用語
- 情報過多
- 無限スクロール