イギリスの哲学・言語・心理学者であるH. Paul Grice は会話する者同士が会話を効果的に伝達するために、無意識または意識的に守っている4つの原理を定義した。協調の原理の4つの原理が不足していると、会話が噛み合わない可能性が高くなる。
4つの協調の原理
- 質の原理(Quality)…情報が正確であること。
- 量の原理(Quantity)…求められている適切な情報量であること。
- 関係性の原理(Relation)…その会話のテーマに関係性があること。
- 明確さの原理(Manner)…順序立ててわかりやすく簡潔に情報を伝えること。

ポール・グライス
引用:https://omg05.exblog.jp/17221108/
1.質の原理
伝えられる物事は、正確さや正直であることが求められる。
わかっていることを伝えるのではなく、わかっていることが問いの質に共わなければ、「わからない」と伝えることが大切。
2.量の原理
要求以上でも以下でもない適切な情報量で相手に伝える必要がある。
だらだらと長く話された割に内容が大したことが無かったり、簡素過ぎるたりすると受け手は協調的でないと感じ、不満を感じる可能性がある。
また、人はすでに分かっている情報を省略した言葉として作成する能力があり、特にお互いをよく知る間柄になればこの傾向は強くなる。
会話例:待ち合わせに遅刻しそうなときの友人同士の会話
互いにあまり親しくない頃は相手に失礼がないように、丁寧なメッセージを送っていたかもしれない。この関係性がどんどん親密になり、互いを知るようになってくると短い文章内でも会話が成り立つ場合がある。
3.関係性の原理
話題に関係する事柄だけを伝える必要がある。
4.明確さの原理
不明瞭だったり曖昧な表現は避ける必要がある。
順序立てて簡潔にわかりやすく説明することが必要で、ただ明示的なだけではなく、伝えたいことの本質を相手に伝わる言葉で伝えることが重要である。
協調の原理が不足したIT企業の会話例
ITリテラシーの低い新人営業鈴木さんと、10年以上のベテランSEの会話例である。
原理に即した解説
協調の原理に当てはめて、どれだけ会話が成り立っていないのかを分析した結果。
不足している原理
❶質の原理:確証のない、曖昧な情報をSEに発言している。
❷量の原理:ITリテラシーが高く、不具合に詳しい相手ならこの短文から「どのブラウザから、どんなOSやバージョンの端末でアクセスし、どのようにエラーログが吐き出されているのか?」という行間も読み取ることもできる。しかし、新人営業の鈴木はそういった知識が不足しているため、発言内容を理解できない。
❸関係性の原理:SEから見れば、全く見当違いの答えが返ってきている。
❹関係性の原理:鈴木側からしたら、突然すぎる質問に感じている。
❺明確さの原理:鈴木が現段階で持てる正確な情報はこれだけであり、SEからすればこの報告を受けた自分は、一体何をしたらいいのか不明なままである。
会話型UIの設計にも協調の原理は重要
AlexaやGoogle Homeといったスマートスピーカーのアプリ、ボイスアシスタントやチャットボットなどを設計する、会話型UI (Conversational UI)・会話デザイン(Coversation Design)にも、協調の原理が必要になる。
会話型UIの設計では、「単にGUI(Graphical UI)を会話型UIに変換するわけではない」ことを理解しておこう。機械と人との対話においても、人間の会話方法に合わせると、人にとって自然な使い心地になる。人間の会話の原理を理解することは、会話設計の基礎となる。
UX DAYS TOKYO 2018 会話型デザインのセッション
UX DAYS TOKYO 2018の会話型デザインに関するセッションでも、協調の原理が会話設計の基本知識として紹介された。
- ボットは、どのように話し、どのように聞くのか?人間とボットにおける会話の構造について – Abi Jones
- 会話形デザインにおける技術と社会的挑戦について – Adrean Zumbrunnen
(スピーカーの意向により、レポート非公開)
Google Assistantのアクションを設計・実装する手引きとして、Googleが公開している会話デザインに関するドキュメント内でも「Learn about conversation」という項目があり、協調の原理が紹介されている。
ユーザーの発言が協調的でない場合も考慮して設計する
設計時の注意点として、人間が自然な会話を行う際に、常に協調の原理を守っているわけではないことがあげられる。協調的ではないユーザーの返答にも、協調の原理を守りユーザーの気分を損なわずに聞き返すようにすることで、自然で気の利いた会話となる。