インクルーシブデザインのプロセスに参加する少数派の人々には高齢者、障害者、外国人などが含まれる。彼らのことは未来を見せてくれる人々という意味で「リードユーザー」という。
リードユーザーと共にデザインすることで、平均的なユーザーが気づかないような潜在的ニーズを発見できる。
成熟した現代社会では、平均的なユーザーの声を聞くことだけではヒット商品を生み出すことが困難な傾向にある。少数派ニーズに応えるデザインを心がけることで、多様化する消費者ニーズを満たせるサービス開発が可能となる。
インクルーシブデザインは、プロダクト/サービス、Web、空間、ビジネスプロセスのデザインなど、幅広い領域での活用できる。各領域において既成概念を打ち破り、イノベーションに繋がる可能性がある。
インクルーシブデザインの事例
誰もが使いやすいOXOの皮むき器
リードユーザーからヒット商品が生まれた事例として、OXOの皮むき器がある。OXO創業者の Sam Farberが、関節炎で食べ物の皮をむくのに苦労している妻を見て「もっと誰にとっても使いやすいキッチンツールが作れないか」と疑問を持ち、考案した結果、OXOの皮むき器は誰もが使いやすいと定評のある製品になった。
平均的ユーザーの利便性も向上させたスマートフォンの機能
iPhoneではアクセシビリティ、Androidではユーザー補助という設定項目がある。
それぞれの設定項目には、視覚サポートとして音声読み上げや画面拡大、聴覚サポートとして着信をLEDフラッシュで通知、身体機能サポートとしてホームボタンで行う操作を画面上のタッチ操作で行えるように設定できるなど、平均的ユーザーにとっても便利な機能が備わっている。
ウェブサイトの設計/開発におけるインクルーシブデザインについては、Sarah Horton氏による著書「A Web for Everyone: Designing Accessible User Experiences」やHeydon Pickering 氏による著書「Inclusive Design Patterns – Coding Accessibility Into Web Design」などで解説されている。
ユニバーサルデザインとの違い
インクルーシブデザインと似た用語で「ユニバーサルデザイン」がある。「ユニバーサル」という用語は、障害者や高齢者にも使いやすいものを考える一方、ユニバーサルデザインの中心にいるのは、あくまでも健常者である。元々「ユニバーサル」という言葉が差別用語として捉えられる文化があり、その文化からユニバーサルデザインの考え方が生まれた。
健常者を中心に考えるのではなく、全ての人の利便性を考えるという意味を持たせて差別的な意味合いをなくすために、近年ではこのようなデザイン手法のことをインクルーシブデザインと呼ぶことが主流になってきている。
リードユーザーを巻き込む際の重要ポイント
最も難しいのは、リードユーザーとの「共感」である。障害者の場合であれば、いつから・どのような背景で障害を持ったのか、自分の障害のことをどう考えているのか、なぜ不便かなど、つい遠慮してしまいがちなところに踏み込んでニーズを聞き出し、理解することがとても重要である。
リードユーザーにインタビューをすると、健常者が普段体験できない社会課題に気付く。このような気付きが、新たなビジネス創造の種となり得る。生活をする上で様々な不便を抱えているリードユーザーから得られる気付きは、未来の超高齢化社会における潜在ニーズであり、重要な競合差別化戦略となる。
参考文献
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- あしたのコミュニティーラボ(2014)「人と人、社会にある課題を解決する「インクルーシブデザイン」という考え方 ──九大 平井康之准教授インタビュー(1)」2018年9月10日アクセス
- OXO Japan「OXOの原点となった代表的商品」2018年9月10日アクセス
- THE PACIELLO GROUP「Inclusive Design Principles」2018年9月10日アクセス