ピラミッドと逆ピラミッド
伝統的な科学論文では、歴史的な根拠をまず提示し、続いて議論や証拠を述べ、最後に結論を述べる起承転結の構造は、ピラミッドの型にあたる。
ピラミッドの構造を逆にしたのが、逆ピラミッドである。つまり、重要な情報を最初に提示し、背景となる情報を最後に提示する文章構造である。逆ピラミッドはジャーナリズムの分野では、100年以上に渡り記述方法の基本形になっている。
逆ピラミッドの文章構造
逆ピラミッドは、リード(最も価値のある情報)と本文(詳しい説明 + 背景情報)の2つに分けられる。リードは5W1Hで内容を簡潔に要約したもので、本文はそれに続く段落からなり、事実や詳細が重要性の高いものから順に述べられる。
誕生の歴史的背景
逆ピラミッドは、電報の発明がきっかけとなり、アメリカ南北戦争時代(1861 – 1865年)に誕生したと考えられている。
当時、電報インフラは貧弱であり、戦争中はよく断線することがあった。そのため、前線にいたジャーナリストは電報を打っている途中に断線してもいいように、最も大切な情報を先に送る、逆ピラミッド型の記述方法を用いた。
電報では逆ピラミッドが利用されていた
まだ家に電話がなかった時代に通信手段として使われてきた電報の報告の例としてよく引用される文章を見ると、最初の段落に5W1H(「誰が」「いつ」「どこで」「なにが」「どのように」)が書かれていることが確認できる。
夜9時半ごろ、フォード劇場で、大統領が、リンカーン夫人、ハリス夫人、またラスボーン少佐と共に特別席に座っている時、暗殺者によって撃たれた。席内に暗殺者が突然押し入り、大統領の背後から近づいたものだ。
暗殺者は舞台上に飛び、大きな短刀あるいはナイフを振り回し、そして劇場の裏方へと逃走した。
その弾丸は大統領の後頭部から、頭部をほぼ貫通した。傷は致命傷である。
傷を負った大統領には意識がなく、現在、死に瀕している。
— New York Herald、1865年4月15日
WEBにおける逆ピラミッドの重要性
Webにおいても、逆ピラミッドが一般的になっている。メディアの記事一覧ページでは、記事のタイトルと要約だけのリードが表示され、本文はユーザーのリクエストに応じて表示されるようになっている。例えば、「続きはこちら」ボタンなどが代表的な例の一つだ。
ウェブサイトのユーザビリティ研究の第一人者ヤコブ・ニールセンは、1996年に執筆したブログ記事『Inverted Pyramid in Cyberspace』 (サイバースペースの逆ピラミッド) にて、ウェブにおいては紙面の場合よりも逆ピラミッドが重要であることを述べている。
ウェブでは逆ピラミッドがさらに重要となる。いくつかのユーザ調査で、ユーザはスクロールしないことがわかったからである。このため、記事の最上部だけしか読まないで立ち去ってしまうことが多いのだ。よほど興味をそそられた読者ならスクロールするだろうし、ピラミッドの基底部まで進んで、細かいところまで記事をつぶさに読むことだろう。
現代、モバイルユーザーが多くなった分、重要なコンテンツを先に提示することがさらに必要になる。モバイルの画面で文章を読む際は、Webよりも画面サイズが狭くコンテキストの情報が少ないため、情報を理解するのは約2倍も難しくなる。
モバイルユーザーに向けて文章を書くときは、ユーザーが必要としているコンテンツを最初に提示するようにしよう。他にも手法の一つとして、ユーザーが必要とするタイミングで、必要な情報や要求された情報のみを表示する「段階的開示」を用いることは有効である。
参考
- Design Rule Index― デザイン、新・25+100の法則
- Content for Answer(Moz)
- モバイルユーザーに向けて書くときは、二次的なコンテンツは先送りしよう(U-Site)