ストーリーに登場する主人公の幸福度の起伏に着目した物語の構造理論。アメリカの小説家Kurt Vonnegut(カート・ヴォネガット)が提唱し、後にバーモント大学が検証を行って発展させた。
カートが提唱した4つの物語構造
カートは、縦軸を幸福度、横軸を時間の推移と割り振ったグラフを作成し、時間の経過と共に幸福度が変化するパターンを4つ発見した。結果的に目的が達成できる「マン・イン・ホール型」、人や大切なものと出会い人生が変化する「ボーイミーツガール型」、不幸な状況から永遠の幸せを得る「シンデレラ型」、いいことが全くない「カフカ型」と名付けた。
シェイプオブストーリー理論の物語構造
マン・イン・ホール(穴の中の男)型
主人公がトラブルに巻き込まれるものの解決し、自分が幸せになる何か(恋人や自信、自己の成長など)を手に入れてエンディングを迎える。人々に好まれやすく、気持ちよく読み終えることができる物語の構造。
カートのグラフでは、主人公の幸福度はある程度高い状態からスタートする。問題が起きて幸福度は右下がりになり、ある程度底辺へ下降した後に解決策を見つけ、出発点よりも高い位置まで幸福度は上昇する。
参考作品:ロード・オブ・ザリング、バーフバリ
ボーイミーツガール型
ごく普通の主人公が、ごく普通の日に素晴らしいものと出会い、一度は失うものの、最後には取り戻してエンディングを迎える物語構造。恋愛作品によく活用されている。
カートのグラフでは、プラスマイナス0の幸福度の状態から、素晴らしいものに出会うことで幸福度は右上がりに上昇し、問題が起きて右下がりになるものの、問題を解決して出発点よりも高い位置まで幸福度は上昇する。
参考作品:(500日)のサマー、魔女の宅急便、ストレンジャーシングス
シンデレラ型
主人公は不幸な状況からスタートし、段階的に幸せになり、途中でまた不幸になるが、最後には末永く幸せになるエンディングを迎える物語構造。
カートのグラフでは、不幸な主人公の状況が徐々に良くなるため、グラフは階段状に右上がりになる。幸福度がピークに達した直後、不幸な状況に立ち戻るため急激に下降するが、その後に幸福な出来事が発生し、グラフは永遠に上昇し続ける形になる。
参考作品:シンデレラ
カフカ型
主人公は不幸な状況からスタートし、救いもなく不幸なままエンディングを迎える物語構造。
カートのグラフでは、不幸な状態でスタートした主人公は、さらに不幸な状況に陥る。幸福度は物語の早い段階から、永遠に垂直下降していく形になる。
参考作品:変身 (カフカ)
バーモント大学が発見した6つの物語構造
2016年にバーモント大学のコンピュータスートーリー研究所(CSL)の研究チームがカートの理論を検証した。1700点以上のフィクション作品における主人公の幸福度を、作品の時間軸に沿って分析したところ、ストーリーの種類は以下の6種類に分類できることを発見した。
- 貧民から富民型
- 富民から貧民型
- マン・イン・ホール型
- イカロス型
- シンデレラ型
- オイディプス型
貧民から富民型(上昇)
不幸だった主人公は、物語がすすむにつれ幸せになり、そのまま幸せなエンディングを迎える。
参考作品:みにくいアヒルの子
富民から貧民型(下降)
幸せだった主人公は、物語が進むにつれ不幸になり、不幸なままエンディングを迎える。
参考作品:世にも奇妙な物語
マン・イン・ホール型(下降~上昇)
カートの提唱したマン・イン・ホール型と同じ物語構造。主人公はトラブルに見舞われるが、解決したのちに自分が幸せになる何かを手に入れエンディングを迎える。
イカロス型(上昇~下降)
主人公は不幸と絶望から立ち上がり幸せになるが、絶望に戻ってエンディングを迎える。
参考作品:ロミオとジュリエット、イカロス、ソウル・ステーション/パンデミック
シンデレラ型(上昇~下降~上昇)
カートの提唱したシンデレラ型と同じ物語構造。何か素敵なものと出会い、一度は手放し、最後にはもう一度手に入れて幸せなエンディングを迎える。
オイディプス型(下降~上昇~落下)
幸せだった主人公はトラブルに巻き込まれるが、解決して幸せになるものの、不幸なエンディングを迎える。
参考作品:オイディプス王
物語構造は組み合わせて使用される
物語構造を、単独で使用することもあれば、組み合わせて使用することもある。
例えば、童話「みにくいアヒルの子」の物語構造は、全体的に「貧民から富民型」だが、物語の途中は「マン・イン・ホール型」が適用されている。
物語を活かして情報を人に伝わりやすくする
人に物事を伝えるときに事実を羅列するだけではなく、物語として伝えることで、伝わりやすくなり、記憶にも残りやすくなる。
ストーリーを通して出来事を伝えることで、出来事のイメージ・理解・共感を生み出す手法であるストーリーテリングは、デザインやUXに重要な手法の1つである。
共感されるストーリーは、物事の経緯と意味付けで構成される。
ストーリーの構成を考える際に、伝えたい物事や意味付けによって、適切なシェイプオブストーリー理論の型を適用すれば、より共感されやすく、伝わりやすい物語を組み立てることができる。
関連用語
参考サイト
- The Six Shapes of All Stories – with Entrepreneurial Tales
- What Kurt Vonnegut’s Shape of Stories Lecture Can Teach Us About Writing Music
- Kurt Vonnegut Diagrams the Shape of All Stories in a Master’s Thesis Rejected by U. Chicago
- Watch Kurt Vonnegut demystify story structure with a fairy tale and a piece of chalk
- Every story in the world has one of these six basic plots