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群衆の知 Wisdom of the crowd

集団で情報を集めて出す結論の方が、個別に出すよりも良い結論になるという考え

群衆の知の存在は、紀元前300年頃から知られていた。例えばアリストテレスは著書『政治学』の中で「群衆の知」について書いた最初の人物とされる。

2004年にJames Surowieckiジェームズ・スロウィッキーの『「みんなの意見」は案外正しい』が出版されてから明確に世の中に知られるようになった。

James Surowiecki

ジェームズ・スロウィッキー
画像引用元:Frases go

群衆の知の例

スロウィッキーが著書の中で取り上げた例に、1906年にプリマスで行われたカウンティフェア(農畜産物の群共進会)における雄牛の体重予想がある。

これは、参加者の体重予想の平均値が、実際の体重とほぼ一致したという例であり、群衆の知の典型例とされる。それ以外にも陪審員裁判などは、群衆の知の一例と言える。

群衆の知が個人の判断より優れているとき

結果が統計的に収束するようなケースの場合、群衆の知は大きな力を発揮する。

スロウィッキーは、群衆の知が個人の判断より優れる場面を3つに分類している。

認識(Cognition)

数値的な予測や、計算のような情報処理をする場面では、個人よりも集団の方が優れている。

典型的な例では、ある商品の市場判断や、株価予想などである。結論が出るまでの早さ、信頼性(政治的な圧力に屈さない)などの面で優位である。

調整(Coordination)

ある場面での最適解を求めるには、個人での判断より集団の調整行動の結果に任せる方がよい。

著書の中では、公園の芝生の上に歩道をつくる際、人々に自由に歩かせた結果、芝生が剥げた跡を目印とした。人々は自由に歩くのではなく、徐々に行動を収斂させて全体最適となる道を見出したのである。

この場面での群衆の知の活用は、「希望線」という言葉としても知られる。

協調(Cooperation)

自由市場において、人々は中央システムや上部システムからの指示命令を受けずに行動し、集団全体が信頼のネットワークを形成する。

群衆の知が失敗するとき

あらゆる場面で個人よりも集団で意思決定する方がよいというわけではない。結果が統計的に収束するようなケースの場合、群衆の知は大きな力を発揮する。

しかし、画期的なアイディアを出す必要がある時(世の中にない新商品を考える等)はかえって逆効果である。

Appleでは、スティーブ・ジョブズが存命の時期はプロダクトに関する決定は彼一人が行い、強烈なリーダーシップを発揮していた。日本においてもソフトバンク、ファーストリテイリングなどは最終的な意思決定は社長一人で行っていると聞く。今やろうとしていることが群衆の知の利用先として適しているかどうかは、慎重に検討する必要があるだろう。

スロウィッキーによると、群衆の知が失敗する時には以下の5つの要素がある。

均一性

集まった人々が均一であるとうまくいかない。

スロウィッキーはアプローチ、思考プロセス、および個人の属性に十分な差異を確保するために参加する人々の中に多様性が必要であると主張しているが、多くの人がいても考え方が似通っていたり、すべて日本人男性だったりすると、群衆の知の効果がうまく利かない。

集中管理

官僚組織のように、ヒエラルキーに支配された関係ではよい結果は出ない。

著書で例に出されているのは2003年のスペースシャトル、コロンビア号の事故である。

打ち上げ直後から技術者が危険に気づいていたにもかかわらず、警告が上層部に届くことも、上層部から現場に意見を求めることもなかったという。

分割

組織間が分割されていると情報共有がうまくいかず、群衆の知が利かない。

サイロ化した組織構造で9.11を防げなかった反省から、国家情報長官室とCIAは、そのような失敗を防ぐために情報の自由な流れを助けるウィキペディア風の情報共有ネットワーク、Intellipediaを作成した。

模倣

フラットで相互なやりとりではなく、選択が目に見えて順番に行われる場合、求めているような議論が行われず、よい結論が出ない場合がある。

そのような場合、後から発言する人は前の人を模倣するようになり、多様性が失われてしまう。

感情

議論する上で所属感や圧力、集団的ヒステリーを感じるようであってはならない。

自分が所属する部署の利益代表として発言するような場で合ってはならない。

活用するには場づくりが重要

群衆の知を活用するには、群衆がただ集まればよいというわけではなく、多様性のある人々が自由に意思表明できる場作りが非常に大事になる。

専門家が多く集まったとしても、その場が自身の人事評価に影響すると知っている場合や、上司から決まった方向性で進めるよう裏で圧力をかけられている場合などは、「忖度」が行われ、自由な意見表明は難しい。

この場作りを行えば、プロジェクトのような期間限定の場だけではなく、組織の定常的な姿であっても群衆の知を活用することができる。

群衆の知をUXに応用する

Q&Aサイトは、この群衆の知をサービスに応用していると言える。

弁護士ドットコムや、AskDoctorsは、医師や弁護士と言った複数の専門家が、他の参加者に遠慮することなく自身の意見を述べることで、利用者は群衆の知から最適な判断を下すことができる仕組みとなっている。

AskDoctors

AskDoctorsでは、一般ユーザーからの質問に複数の医師が答えるQ&Aサイト
画像引用元:AskDoctors

会社組織での事例として、メルカリでは、社内のコミュニケーションをオープンにして、全社員のやりとりを社員であれば誰でも見られるようにしている(2019年時点)。他の人に見られない個別のやりとりを極力せず、徹底的に情報のオープン化を行うことで、組織のサイロ化を防ぎ、群衆の知を活用しやすい土壌を整える取り組みだと言える。

関連用語

参考文献

  • ジェームズ・スロウィッキー『「みんなの意見」は案外正しい』角川文庫、2019年
  • マイケル・A・ロベルト『決断の本質 プロセス志向の意思決定マネジメント (ウォートン経営戦略シリーズ) 』英治出版、2006年

参考サイト

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