demographic(人口統計学の、人口動勢の)という英単語の意味どおり、人口統計に関する属性を示す。一般的には年齢、性別、世帯規模、家族のライフサイクル、所得、職業、学歴などが挙げられる。
「デモグラフィック特性」や「デモグラフィック変数」、「デモグラフィック環境」、「デモグラフィック分析」、「デモグラフィックデータ」のように名詞と組み合わせて利用されることが多い。
マーケティング戦略に採用
マーケティング戦略を立てるためには、顧客のニーズの理解やターゲットの選定が必要である。その際に使用する情報にデモグラフィックがある。例えば、子供向け商品をプロモーションする時に、デモグラフィックデータを利用して以下のようにターゲットを選定する。
子供向け商品なので、独身男性よりも子供のいる女性をターゲットに広告を配信した方がマーケティングが成功しやすい。このように、ターゲット選定・市場の細分化や業界外の動向把握にもデモグラフィックは採用される。
市場の細分化での利用
現代では1つの製品を全ての購買者を対象にして、大量生産、大量流通、大量プロモーションするマスマーケティングは難しくなっている。そこで、顧客ニーズをグループ化し、市場を細分化するマーケティング手法が生まれた。デモグラフィックは市場の細分化にも役立つ。
市場細分化に用いられるセグメンテーション変数(※)は、デモグラフィック変数の一つである。デモグラフィック変数には下の図のようなものがあり、「年齢=20〜34歳のグループ」や「世帯規模=1〜2人のグループ」のような細分化に使われる。
年齢 | 6歳未満、6〜11歳、12〜19歳、20〜34歳、35〜49歳、50〜64歳、65歳以上 |
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世帯規模 | 1〜2人 、3〜4人、5人以上 |
性別 | 男性、 女性 |
家族 | 独身(婚姻歴なし)、独身(死別)、独身(離別)、既婚で子供なし、 既婚で末子が6歳未満、既婚で末子が6歳以上18歳未満、既婚で末子が18歳以上、死別、離別 |
所得 | 100万円未満、100万円以上300万円未満、300万円以上600万円未満、600万円以上1,000万円未満、1000万円以上1500万円未満、1500万円以上 |
成功例として、米国ゼネラル・モーターズ社(GM)の戦略が挙げられる。
1920年代のアメリカでは、低価格で画一的なT型フォードが自動車市場を席巻していた。しかし、GMは「自動車の普及が終わると、所得の階層ごとに嗜好が生まれ始める」と予測し、所得水準ごとに市場を「一般」「中流の下」「中流の上」「上流」に分け、フルラインによる多品種大量生産の体制を構築して、市場の細分化を実践していった。その結果、GMは各階層の異なる顧客ニーズを掴むことに成功して、販売台数を伸ばしフォードのシェアを奪っていった。
※現代マーケティングの第一人者であるPhilip Kotler(フィリップ・コトラー)氏は、「地理的変数(地域、気候など)」「デモグラフィック変数」「サイコグラフィック変数」「行動・態度変数(使用頻度、ロイヤリティなど)」の4つのセグメンテーション変数をあげている。
業界外の動向を把握するための利用
品質の良い製品やサービスを作りあげるだけでは、マーケティングは成功しない。それは、個人や特定の企業ではコントロールできない要因で市場に変化が起こることがあるためだ。
デモグラフィック 変数を用いた、市場の変化に関する仮説
- 18歳人口が減少したために、大学受験向け予備校への入学希望者が少なくなる
- 世帯人数が減ったために、大量パックよりも少量パックの売り上げ個数が増加する
- SIMロックに関する法的な規制が緩和されたために、携帯電話業者以外の企業が格安スマホ市場に参入しやすくなる
新たな顧客発見にも役立つ
社会環境など業界外の動向も考慮すると、今までターゲットとしていなかった顧客を発見することがある。その際に使われるデータの一つがデモグラフィックデータである。
例えば、米国玩具メーカー(マテルやハスブロ)は、中華人民共和国の一人っ子政策以後に生まれた子供たちのことを『小皇帝』と呼び、両親と両方の祖父母(合計6つのポケット)から資金と愛情を受けている点に目をつけて利益をあげた。
デモグラフィックだけでは不十分
デモグラフィックは調べやすく、誰もがわかりやすいものである一方、複雑化する顧客分析をデモグラフィックだけで特定することは難しい。市場細分化においても4つのセグメンテーション変数を使うなど、他の要素を併用して使うことが必要である。そして、市場の細分化も業界外の動向把握もマーケティング戦略における手段の1つであって目的ではないということを忘れてはならない。