計算ができる賢い馬(ハンス)
1900年代の初頭にドイツで、小学生が習うような簡単な読み書きや計算ができるというハンス(クレバー・ハンス)と言う馬が有名になりました。今では「馬が計算できる」と思う人はいないと思いますが、ハンスの飼い主や最初にハンスの能力を検証した学者は「ハンスは計算ができる」と考えていました。
後に別の学者によって再検証され、ハンスは雰囲気を察知する能力がとても高かったがゆえに、人の無意識の動きを読み取って答えを当てることができたという結果がでました。この出来事から、被験動物が実験者の無意識のサインを読み取って行動を取ることを「クレバー・ハンス効果(Clever Hans Effect)」と呼ぶようになりました。
判断力を低下させる思い込み
当時のヨーロッパではダーウィンの著書「進化論」が発表され「動物認識(animal cognition)」に高い関心が寄せられていたという背景もあり、ハンスの飼い主は、ハンスに小学生が受ける教育を施していました。「ヒトが知性を獲得してきたように、他の動物も”進化”を続けているのではないか?」というダーウィンの進化論は当時多くの人達にとって魅力的だったのでしょう。
「高等動物はヒトと同等の知性を持つ」という考えの持ち主であった飼い主は、ハンスの振る舞いがヒトと同じように計算をしていると捕らえていました。このような状態を認知心理学や社会心理学の用語では「確証バイアス」(バイアス)がかかっていると言います。
バイアスがかかっていると、人は間違った判断をしてしまいます。ハンスの飼い主に解答を知らせないで計算を行わせたら実際にはできなかった事実があります。
十分な回数テストを行ってフングストが得た結果では、質問者が卿(ハンスの飼い主)である必要はない(詐称ではないことが証明された)が、馬が正しく答えられるためには、質問者が答えを知っておりかつ見える位置にいることが必要だった。卿が答えを知っている時は馬は89%の確率で正しく答えたが、そうでない時は6%しか正答しなかった。
引用:賢馬ハンス(Wikipedia)
ハンスの飼い主や、はじめに検証した学者は、それぞれにそれぞれの思惑があり、バイアスがかかっている状態だったため「馬は計算ができる」という間違えた判断による答えを出してしまったと考えられます。
人は、あらゆる物事に対して「〜に違いない」という決めつけをしたり、与えられた情報を鵜呑みにしたり、真偽を疑わずに盲信したり、事前のイメージや印象に影響される事で無意識に(自分の中にある基準で)判断を下してしまいがちなのです。
私たちは常識や環境、考え方の癖や思い込みなど何かしらの影響下にあり、だからこそ検証をする際には意識的にバイアスを排する心構えが必要です。ハンスを巡って巻き起こった騒動はただ単に「クレバー・ハンス効果」を実証したのではなく、人々の持つバイアスを炙り出していたと言えるでしょう。