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アウトカム・バイアス Outcome Bias

意思決定の良し悪しを、その決定によって生じた結果に過度に影響されてしまう認知バイアス

良い結果が得られた決定は「良い決定」、悪い結果が得られた決定は「悪い決定」と判断してしまう傾向を指す。
仮に良い選択だとしても、結果だけで判断してしまうバイアス。逆の意味も含む。

アウトカム・バイアスの提唱者

肖像 John C. Hershey

ジョナサン・バロン

肖像 Jonathan Baron

ジョン・C・ヘルシュタイン

1988年に心理学者のジョナサン・バロン(Jonathan Baron)とジョン・C・ヘルシュタイン(John C. Hershey)によって体系的に研究され、命名された。

彼らの論文「Outcome Bias in Decision Evaluation」では、この認知バイアスが詳細に分析され、人間の判断が結果によっていかに左右されるかが実験を通して示されている。

本研究では、被験者に仮想的な医療意思決定シナリオを提示し、その決定の質を評価した。同一の意思決定プロセスを経たにもかかわらず、結果が良好であった場合と不良であった場合とで、被験者による評価に大きな差異が見られた。

バロンとヘルシュタインの研究は、意思決定研究および行動経済学の分野に重要な貢献を果たし、その後の認知バイアス研究に多大な影響を与えた。

具体例

医療現場

ある医師が、患者の症状と入手可能な情報に基づき、最適と考えられる治療法を選んだとする。
たとえこの決定の過程そのものは適切であったとしても

  • 良い結果の場合: 患者が回復すると、医師の判断は「優れていた」と評価される
  • 悪い結果の場合: 患者の状態が悪化すると、同じ判断プロセスでも「誤りだった」と評価される

ビジネス

ある企業が市場調査と分析に基づいて新製品を発売したとする:

  • 成功した場合: その意思決定プロセスは「優れた戦略」として称賛される
  • 失敗した場合: 同じ意思決定プロセスでも「不十分な調査」や「誤った判断」と批判される

アウトカム・バイアスの問題点

  1. 意思決定プロセスの評価を歪める: 良い結果が必ずしも良い決定プロセスから生まれるとは限らず、その逆もまた然り。
  2. 学習の妨げになる: 結果のみで評価し、運や偶然を考慮しないと、本当に重要な教訓を見過ごす可能性がある。
  3. 不公平な評価につながる: 質の高い意思決定であっても、結果次第で評価が大きく左右される。
  4. リスク回避行動を促進する: 悪い結果を避けるため、保守的な選択肢ばかりを選ぶようになるおそれがある。

アウトカム・バイアスを克服する方法

  1. 決定プロセスに注目する: 結果だけでなく、その決定がなされた時点で利用可能だった情報と判断プロセスを評価する。
  2. 確率的思考を身につける: すべての決定には確率的要素があることを認識し、単一の結果だけでなく期待値で考えることが重要。
  3. 事前評価を行う: 結果が出る前に、その決定の質を評価する習慣をつける。
  4. 反事実的思考を実践する: 「もし別の決定をしていたら、どうなっていたか」を考えることで、結果だけに囚われない視点を持てる。

実生活での応用

  • 投資判断: 短期的な結果ではなく、投資プロセスの質を評価する
  • 人事評価: 部下の成果だけでなく、意思決定の質やプロセスも評価の対象にする
  • 自己反省: 自分の過去の決断を振り返る際、当時の情報と判断プロセスを思い出す

大手企業にみるアウトカムバイアスの事例

結果を知った後にその過程や決断を評価する際に、結果に基づいて判断が歪められる認知バイアスなので、ビジネスにも大きな影響を与える。
大手企業での意思決定に影響を与えた事例を紹介する。

1. ノキア(Nokia)

ノキアはスマートフォン市場の黎明期において、タッチスクリーン技術への投資を抑制する戦略を採用した。

当時としては妥当な判断と見なされたが、iPhoneの成功を受けて、その決定は「明らかな誤りであった」と事後的に批判された。
実際には、当時の入手可能な情報のみに基づいて将来を予測することは困難であり、結果論による評価が下されたと言える。

2. コダック(Kodak)

デジタルカメラ技術を実際に社内で開発していたにも関わらず、フィルム事業を守るためにデジタル化への移行を遅らせた。

後にデジタルカメラ市場が爆発的に成長し、コダックが破産した後、「デジタル革命を予見できなかった」と批判されたが、当時の判断は当時の市場状況では合理的だった側面もある。

3. リーマン・ブラザーズ(Lehman Brothers)

2008年の金融危機での破綻後、リスク管理の失敗が厳しく批判された。

しかし、同様のリスク管理を取っていた他の金融機関で生き残ったところもあり、結果によって決定された問題ではなかったことが理解できる例である。

4. BP(ブリティッシュ・ペトロリアム)

2010年のメキシコ湾原油流出事故後、安全対策の不備が厳しく批判されたが、事故前は同様の安全基準で運営していた他の石油会社は批判されなかった。結果が出た後に同じ意思決定プロセスの評価が変わった典型例である。

5. ヤフー(Yahoo)

1998年にGoogleの創業者からGoogleの技術を100万ドルで買収するオファーを断った。
後にGoogleが巨大企業になった後、この決断は「歴史上最悪のビジネス判断の一つ」として批判されたが、当時の情報だけでは合理的な判断だった可能性もある。

アウトカムバイアスは、企業における意思決定の評価において広く見られる現象である。

成功した決定は「先見の明があった」と賞賛されがちだが、失敗した決定は「明白な誤り」と非難される傾向がある。
しかし、重要なのは、意思決定が行われた時点では、将来の結果を完全に予測することは不可能であるという点である。
同じ情報と状況が与えられれば、多くの人が同様の判断を下した可能性が高いのである。

まとめ

アウトカム・バイアスは判断に大きな影響を与えるため、おそらく完全に排除することは難しい。

しかし、このバイアスを認識し、意思決定のプロセスを意識することで、より公平で効果的な評価が可能になる。
重要なのは、良い結果が必ずしも良い決断によるものではないと理解すること。
その時点での情報に基づき、最善のプロセスを踏むことこそが良い決断と言える。

参考文献

UX DAYS TOKYO (代表) 見た目のデザインだけでなく、本質的な解決をするためにはコンサルティングが必要だと感じ、本格的なUXを学ぶため”NNG”に通い日本人としてニールセンノーマンの資格を取得。 業績が上がる実装をモットーにクライアントから喜ばれる仕事をしています。

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