通常とは異なる緊急性・感情的動揺・情報過多・時間的制約の中でも、安心感と正確な行動選択を可能にするUXデザインが求められる。
提唱者
危機対応UXという用語そのものに明確な「提唱者」は存在しないが、この分野のUX理論や実践的アプローチは、ニールセン・ノーマングループ(NNG)やIBM 緊急対応設計(IBM Design for Emergency Response)、また災害コミュニケーション研究者 デニス・ミレティ(Dennis Mileti )などの知見に基づいて進化してきた。
NN/gでは、「災害時UX(Disaster UX)」として提唱されており、その中で「恐怖状態では認知リソースが著しく低下するため、非常に簡潔で行動指向のUIが必要」とされている。
デザインにおける利用方法
危機対応UXを実現するためには、以下の要素が不可欠である。
原則 | 説明 |
---|---|
情報の最小化 | 今すぐ必要な情報だけを提示し、判断を助ける。 |
目立つアクション | 次に何をすべきかを明確にし、ボタンや誘導を大きく配置。 |
感情的安心感 | 落ち着いた配色、やさしい言葉づかい、信頼できる文言の使用。 |
リスク認知の明確化 | 「何が起きているか」「何がリスクか」を一目で伝える。 |
モバイル最適化 | 緊急時にはスマートフォンが唯一の情報源となる可能性が高いため。 |
活用シーンと具体的なプロダクト事例
- 災害通知アプリ(地震・津波・豪雨)
- 公共インフラ系サービス(鉄道・交通・電力)
- 感染症対策アプリ(例:新型コロナの接触確認)
- 緊急避難誘導サイト
- サイバー攻撃時のリカバリーUI
【具体的事例】
Yahoo!防災速報アプリ(日本)
災害情報をリアルタイムで通知するアプリ。視認性の高いUI、色分けされた危険度、プッシュ通知による即時性が特徴。危機時に必要な「どこで」「何が」「どうすれば」の3情報を簡潔に表示している。
NHS COVID-19アプリ(イギリス)
接触通知に加え、自己隔離のタイミングと理由を簡単に表示。ストレスのかかる状況下での判断をサポートし、安心感を与える設計が評価された。
Googleの「アカウント緊急対応ガイド」
アカウントがハッキングされた際に、段階的な対応フローをUIに組み込んでおり、ユーザーが恐怖や混乱に陥っていても、順を追って復旧できるようデザインされている。
UX/プロダクト設計の文脈での活用
- ユーザーが迷いがちな「エラー時の画面設計」
- 災害訓練アプリや行政の防災サービス
- セキュリティ侵害発生時のプロダクト対応フロー
- 社会的混乱時のEコマース通知(物流遅延、返品対応)
- ATM停止、停電時などの緊急インフラ情報UI
災害UX(Disaster UX)とは
災害UX(Disaster UX)とは、地震・津波・洪水・火災・台風・パンデミックなどの自然災害や大規模事故が発生した際に、人々が適切な行動を取れるように支援するユーザー体験の設計を指す。
災害UXの設計では、瞬時の判断・生命に関わる意思決定・混乱状態での操作などを前提としており、特に情報の即時性、明快さ、行動の明示性が重視される。
以下のような設計原則に基づき、ユーザーに「今どう動けばよいか」「自分に関係があるか」「信頼できるか」を即座に伝える。
【災害UXの主な設計原則】
原則 | 説明 |
---|---|
緊急性の明示 | 状況が切迫していることを視覚的・言語的に示す |
行動の単純化 | 次に取るべき行動(避難、確認など)を1ステップで伝える |
位置・対象の特定 | 「自分に関係があるか」を位置情報と組み合わせて明示 |
通信制限への配慮 | 回線が不安定でも最低限の情報が取得できる構造にする |
感情への対応 | 不安を煽らず、落ち着いて行動できる言葉づかいや配色を採用 |
災害時UXとの違い
危機対応UXは「災害UX」を内包する広い概念である。
観点 | 災害UX(Disaster UX) | 危機対応UX(Crisis-Responsive UX) |
---|---|---|
主な対象 | 自然災害・事故・パンデミック | 社会的・個人的なあらゆる緊急事態(サイバー攻撃なども含む) |
情報の性質 | 命に関わる即時情報が中心 | サービス停止や被害発生に伴う説明や支援が中心 |
ユーザーの心理 | 恐怖・混乱・逃避欲求など感情が高ぶった状態 | 不安・混乱・怒り・困惑など多様 |
典型的なUI例 | 災害速報アプリ、緊急避難通知、気象情報 | セキュリティ通知、サポート案内、機能制限告知 |