人は「自分が生きている環境は基本的に正しいはずだ」という認知を持つことで、不安や不満を和らげる。
このため、システム正当化バイアスは 「被害を受けている側の人々自身が、その不公平を受け入れてしまう」 という形でも現れる。
たとえば、低賃金労働者が「自分が報われないのは努力不足だから仕方がない」と考えたり、差別を受けている集団が「社会がそう決めているから当然」と納得してしまうようなケースである。
提唱者
システム正当化理論は、ジョン・ジョスト(John T. Jost) らによって1994年に提唱された。
彼は社会心理学者で、特に「人がなぜ不公平な社会システムを支持してしまうのか」を研究している。
デザイン上の利用方法と事例
デザインにおいては、人々が「現状を正しい」と感じやすい心理を理解することで、サービス改善や新しい体験の導入に役立つ。
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UI改善のハードル
ユーザーは慣れたインターフェースを「これが正しい」と感じるため、新しいUIに反発する場合がある。このため、段階的な改善や「現状を尊重しながら変化を提示する」デザインが有効である。 -
社会課題を扱うキャンペーン
環境問題やジェンダー問題を扱うとき、「現状が正しい」という思い込みを前提に、気づきを与えるストーリーテリングが必要となる。 -
ブランドデザイン
長く使われている企業ロゴやサービスのアイコンは「これが正しい」と感じられやすく、刷新すると反発を受けやすい。この心理を踏まえ、段階的なリブランディングを計画する必要がある。
プロダクト・コンテンツデザインで「使える場面」
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新機能導入
「従来のやり方を否定する」のではなく「今の良さを残しつつ、もっと便利になる」と伝える方が受け入れられやすい。 -
社会変革サービス(例:SDGs関連)
「現状の仕組みも尊重しつつ、こうすればさらに良くなる」と提案すると、抵抗を和らげることができる。 -
行動変容アプリ(例:健康、金融、学習)
現状維持を正当化したい心理に配慮し、「小さな一歩で変えられる」と伝えると利用者が行動を起こしやすい。
ブラック企業との関係
人は、自分が属する社会や制度が不公平であっても、それを「正しいもの」「仕方のないもの」と受け入れ、正当化してしまう傾向を持つ。
例えば、
- 低賃金労働者が「この業界はどこも給料が安いから仕方ない」と思って働き続ける
- ブラック企業で働く人が「自分の努力が足りないから大変なんだ」と自己責任化する
- 社会的不平等に直面しても「この世の中はそういうものだ」と納得してしまう
といった形で現れる。
ブラック企業のように過酷な労働環境でも、労働者が辞めずに働き続ける理由は、「自分だけが苦しいのではない」「この苦労はいつか報われる」「上司も大変だから仕方ない」などの認知的解釈が、状況を正当化してしまうからである。