生成AIから期待通りの結果を引き出すためには、AIの仕組みを理解した上で、指示の曖昧さをなくすことである。具体的には、「どんな背景や状況で」「何を要求していて」「どんなルールで答えてほしいか」を正確に伝える必要がある。プロンプトは単なる質問文ではなく、特定の考え方をさせ、指定した形式で回答させるための「指示書」と言える。
プロンプトの進化:指示されるものから指示文するものへ
プロンプトという言葉は、もともとコンピューターの世界から生まれた。かつては、「次はXXを入力してください」と使う人がシステムに指示されるものだった。有名な例として、操作用の命令(コマンド)を入力する場所を示す「コマンドプロンプト」がある。
ところが、2010年代後半から、巨大なAIモデルを核とする生成AI技術が急速に発展し、一般にも広く使われ始めた。これに伴い、プロンプトの意味は大きく変化し、「AIに対する指示するもの」としての意味合いが主流になった。なぜなら、生成AIは従来のシステムと違い、入力された指示(プロンプト)に応じて、テキスト、画像、コードといった新しいコンテンツを何もないところから生み出す能力を持っているからだ。この生成能力を最大限に引き出し、望み通りの結果を確実に得るためには、単にAIに話しかけるだけでなく、指示文そのものを設計し、最適化する必要が出てきた。これが、現代においてプロンプトの重要性が飛躍的に高まった背景である。
AIの成果を確実にするプロンプト設計
プロンプトは、AIへの指示が単なる「会話」ではなく、特定の成果を引き出すための「条件設定」である。曖昧な指示を出してしまうと、AIが意図しない方向へ進んでしまうリスクがある。そのため、初期のコンピューターシステムにあったような、厳密な入力ルールを意識する姿勢が重要となる。具体的で構造化された指示を意識することが、これからのAI活用トレンドを予測し、成功を収めるための基本的な知恵となる。
この指示書を適切に作るには、いくつかの要素が必要になる。まず、指示の背景や文脈といった「背景情報」を与えること。これにより、AIの解釈がより正確になる。次に、「具体的な要求」を明確に伝える。さらに、「あなたはプロのマーケターだ」のようにAIに「役割」を与えることで、回答の視点やトーンを調整しやすくなる。そして、「最大500文字で要約する」「3つの項目にまとめる」といった「回答の形式やルール」を具体的に決めておくことが、得られた結果をすぐに業務で使うために不可欠だ。
AIへの指示に必要な要素
- 背景情報
- 具体的な要求
- 役割
- 回答の形式やルール
このプロンプトの仕組みを理解することは、UXデザイナーやプロダクトマネージャー(PdM)の仕事にも役立つヒントになる。あいまいな指示では、AIは一般的な答えしか出せないため、プロダクト設計においては、ユーザーの具体的な状況や目的といった「背景情報」をプロンプトに含めることが、AIによる顧客像(ペルソナ)作りやユーザー体験の設計の質を高める鍵となる。また、特定の形式を指定すれば、会議の記録や必要な機能のアイデアなど、業務で即座に使える資料をAIに作らせることができ、作業の効率化に大きく貢献する。
隠れた問題点を見つけ設計深度を高める
プロンプトを活用する最大のメリットは、企画や調査の初期段階で、多様な視点を素早く手に入れられる点だ。
具体的には、新しい機能やプロダクトのアイデアを考えるごく初期の段階で、AIに特定の役割や立場を担わせる。これにより、自分たちだけでは見えにくい隠れた問題点や、競合他社の目線に立った戦略的な提案を出力させることが可能になる。
たとえば、プロンプトの最初に「あなたは弊社の主要な競合プロダクトのUXリサーチャーだ」とはっきり定義する。するとAIはその役割になりきって、それに合わせた視点から回答を出す。このやり方を使えば、自社のメンバーだけでは気づきにくいリスクや、競合に打ち勝つための斬新なアイデアを短時間で引き出せる。その結果、設計を検討する初期段階から、その深さと幅を飛躍的に高められる。
プロンプトを応用し、仮説検証を高速化する
あるプロダクトチームが、新しいサービスの紹介ページ(LP)をより良くするプロジェクトで、AIへの指示(プロンプト)を使い、ターゲットとなる顧客像とキャッチコピーをあっという間に検証した事例がある。
このチームは、そもそも誰をターゲットにすればいいのかが曖昧だった。そこで、まずAIに「ターゲット顧客になりうる、性格や背景が異なる3つのパターン(ペルソナ)」を作らせた。
次に、AIに「あなたは、このターゲット顧客Aの視点を持つプロのコピーライターだ」という役割を与えた。その上で、「このLPの主要機能Xがもたらす最大のメリットを強く訴え、クリック率を上げるキャッチコピーを5案考えろ」と、具体的な目的と実行ルールを指示した。さらに、指示を細かく調整する際は、「何をしないべきか」という否定的な表現を避け、「メリットを具体的に強調しろ」という肯定的な表現を使った。
このやり方の強みは、人が時間をかけて行うはずの「ターゲット顧客の理解」から「宣伝文句の試作」までの一連の流れを、AIへの指示だけで短縮し、一気に終わらせた点にある。AIに明確な役割を与え、具体的なルールを設けたことで、抽象的な答えではなく、マーケティング戦略に直結する、実用的で具体的なアイデアをすぐに得ることができた。これは、サービス企画や開発を担当する人たちが、仮説を検証するサイクルを劇的にスピードアップさせ、市場の変化に柔軟に対応するための強力な手段となることを示している。
関連用語
- プロンプトエンジニアリング
- Few-shotプロンプティング
- Chain-of-Thoughtプロンプティング