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エンベディング Embedding

文章や画像などのデータに隠された意味を、コンピューターが理解できる数値のまとまりで表現する技術

エンベディングとは、単語や文章、画像といったあらゆるデータを数値の空間に並べ替える技術である。データが空間上の数値に変わると、性別や感情、時間軸といったデータ固有の特徴や意味を持つようになる。例えば「犬」と「猫」のように似た意味を持つものは互いに近くに配置され、意味的に遠いものは離れて置かれる。このおかげで、バラバラだったデータが整理され、AIモデルの処理効率を大幅に高めることができる。

言語の意味や文脈を数値化する

言葉という抽象的で曖昧な意味・概念を「数値」として埋め込み、固定化する(定義する)ことからエンベディングと名付けられた。エンベディングは生成AIが台頭する以前からあったが、コンピューターが言葉を理解する技術、自然言語処理の分野で大きく進化した。初期のやり方は、どの単語とどの単語がどれくらいセットで使われるかを数え、その頻度を元に単語を数値に置き換えるものだった。転機となったのは2013年のWord2Vecという技術の登場である。これは、単語の「周りの情報」を使ってその単語自体を数値に変換する技術で、「王様−男性+女性=女王」のように、言葉の意味的な関係を数学の計算で扱えると証明し、世界に衝撃を与えた。その後、GloVeのようなさらに効率的な手法が生まれ、2018年にはBERT Embeddingによって、単語だけでなく文章全体の「文脈」を考慮した、より柔軟な数値化が可能になった。

キーワードではなく、意味に近い情報が探せる

「エンベディング」は、ユーザーが本当に求めている情報へ最短でたどり着ける、最高の検索体験を実現するための強力な手段だ。ユーザーが質問(検索の入力)をすると、その質問自体も瞬時に数値に変わり、データベースにある文書の数値と比較される。この数値的な「近さ」を調べることで、検索キーワードが文書と完全に一致しなくても、質問の「意味」に最も近い情報をすぐに見つけ出し、ユーザーに提供できる。

例えば、ユーザーが「部下のやる気をあげたい」検索した場合、従来のようなWebのキーワード検索だと「”部下”の勤怠管理」「”やる気”のない社員への対応」など、言葉だけで探すことになる。しかし、エンベディングによる検索なら、ユーザーの文脈と近い情報として「コーチング研修 基礎編」「リーダーシップ開発プログラム」などの上司側のスキルアップに関する情報を提示する。

この仕組みは、検索の正確さを単に高めるだけでなく、ユーザーが欲しい答えを最も自然な形で手に入れられるようにすることで、検索体験の質そのものを大きく向上させるものと理解できる。

顧客の満足度を高め利用を加速

エンベディングを使う代表的な事例は、動画配信サービスが提供する、利用者一人ひとりに合わせた作品おすすめ(パーソナライズ)機能である。たとえば、Netflixなどのサジェスト(推薦・提案)機能では、利用者の「見た」「評価した」「探した」という行動データや、映画・ドラマのタイトル、あらすじ、ジャンルといった作品の情報を、すべて「数字」に変える。その利用者のニーズに近い作品を数値上の計算で予測できる。

このアプローチの大きな効果は、利用者がまだ気づいていない潜在的なニーズを見つけられることである。これまでは「同じジャンルを見た人」といった大ざっぱな分け方に頼りがちだったのに対し、エンベディングを使えば、「皮肉めいたユーモアと暗い雰囲気」のような、より抽象的な特徴(つまり作品の持つ「意味合い」)まで正確に把握できる。

​UX課題をデータで速攻解決

エンベディングという技術は、顧客サポートの現場で、ユーザーからの自由な形のフィードバック分析を自動的に行うのに応用できる。具体的には、アプリストアのレビュー、サポートチャットの記録、ユーザーインタビューの文章など、膨大なデータをすべて「数値」に変換する。

これにより、「検索が使いにくい」といった直接的な言葉だけでなく、「情報が多すぎる」「必要なものがすぐに見つからない」「イライラする」といった、表現は違っても根本的に同じUXの課題を訴えているレビューを集めて、意味として集約できる。結果として、定性的なデータを手動でグループ分けしたり、優先順位をつけたりする作業を大幅に効率化し、プロダクト改善の妨げになっている本当のUX課題をデータに基づいて素早く特定することが可能になる。

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RAG

BtoB人事業務アプリのコンサルタント→エンジニア→BtoCのWebディレクターを経て、再度BtoB業務アプリとなる物流プラットフォームのUIUXに挑戦。オンライン/オフライン双方でのBtoBUXを改善すべく奮闘中。

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