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ピボット Pivot

学びに基づき事業の核を残し方向転換する戦略的軌道修正。

ピボットとは、単なる方針転換や失敗の白旗を意味する言葉ではない。それは、「検証された学び」に基づき、事業の根本的なビジョンは維持したまま、それを達成するための戦略を構造的に変更することである。

不確実性の高い現代の事業開発において、初期の仮説が市場の現実と乖離していることは日常茶飯事である。ピボットは、そうした状況でそれまでの投資や学びを無駄にせず、成功への道筋を再発見するための、科学的かつ勇気ある舵取りと言える。

軸足を残したまま方向転換する

ピボットは、リーンスタートアップの「構築-計測-学習」フィードバックループの「学習」フェーズで下される重要な意思決定である。

最小限の機能を持つ製品(MVP)を市場に投入し(構築)、その反応をデータとして集め(計測)、仮説が正しかったかを分析する(学習)。
この学習の結果、現在の戦略では成長が見込めないと客観的に判断された場合、「固守(Persevere)」するか「ピボット(Pivot)」するかの選択を迫られる。

ピボットは、闇雲に方向を変えることではない。そこには必ず「軸足」となる要素が存在する。それは、これまで蓄積した技術、顧客に関する深い理解、あるいは解決しようとする課題の核心部分かもしれない。この軸足を残しつつ、戦略の他の部分を大胆に変更する点が、単なる事業転換との決定的な違いである。

語源・提唱者

引用:https://mastersofscale.com/people/eric-ries/

この概念は、起業家エリック・リースが自身の著書『リーン・スタートアップ』の中で体系化したことで広く知られるようになった。彼はバスケットボール用語に着想を得ている。バスケットボールでは、選手は片足を床につけたまま(ピボットフット)、もう片方の足と上半身を動かしてパスやシュートの方向を変える。これと同様に、事業においてもビジョンや蓄積された知見という「軸足」は固定したまま、市場や顧客に適合するように戦略の「向き」を変えるという考え方を、この言葉で表現したのである。

失敗を成功の糧に変える舵取り

ピボットの最大の価値は、それまでの活動で得た学びや資産を無駄にせず、次の成功へと繋げる点にある。事業開発において、初期の仮説が外れることは失敗ではなく、貴重な「学習」である。

ピボットは、その学習を元に、より確度の高い新たな仮説を立て、資源を再配分するための正式なプロセスだ。
これにより、チームは「失敗した」というネガティブな認識から解放され、「我々は市場について学び、より良い方向を見つけた」という前向きなマインドセットを持つことができる。これは、不確実性の中で進むチームの士気を維持し、最終的な成功確率を高める上で極めて重要である。

仮説検証サイクルから次の一手を見出す

プロダクト開発の現場においてピボットは、仮説検証のサイクルから生まれる。

例えば、ある特定のユーザーセグメントの課題を解決するためにMVPを開発し、リリース後の利用状況を分析する。
その結果、想定していたセグメントには響かず、むしろ全く別のセグメントのユーザーが、開発者の意図しなかった方法で熱狂的に製品を使っていることが判明したとする。この「学習」こそがピボットの起点となる。

この段階でチームは、「当初の仮説は間違いだったが、我々の技術は別の、より大きな課題を解決できるのではないか」という新たな仮説を立てる。そして、その新たな仮説を検証するために、プロダクトの価値提案やターゲット顧客を再定義し、ロードマップを根本的に見直すという意思決定を行う。

ゲーム事業から生まれた巨大ツール

ビジネスコミュニケーションツールとして絶大な支持を得るSlackは、歴史上最も成功したピボットの事例の一つである。

Slackは、元々Tiny Speckという会社が開発していたオンラインゲーム『Glitch』の社内コミュニケーションツールから生まれた。彼らの当初の戦略は、独創的な世界観を持つゲームで市場を獲ることだった。しかし、ゲーム自体は商業的な成功を収められず、2012年にサービスを終了する。まさに事業失敗の淵であった。

しかし、彼らはゲーム開発の過程で得た「学び」と「資産」を持っていた。地理的に離れたチームが効率的に協業するために自作したコミュニケーションツールが、驚くほど高機能で使いやすかったのである。チームは、ゲーム開発で培ったリアルタイム通信技術やUIデザインの知見という「軸足」はそのままに、「人々を楽しませる」という戦略から、「チームの生産性を高める」という全く新しい戦略へとピボットした。この意思決定が、今日のSlackの成功に繋がった。

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UX DAYS TOKYO オーガナイザ/デジタルマーケティングコンサルタント 著書 ・ノンデザイナーでもわかる UX+理論で作るWebデザインGoogle Search Consoleの教科書 毎年春に行われているUX DAYS TOKYOは私自身の学びの場にもなっています。学んだ知識を実践し勉強会やブログなどでフィードバックしています。 UXは奥が深いので、みなさん一緒に勉強していきましょう! スローガンは「早く学ぶより深く学ぶ」「本質のUXを突き止める」です。

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