根本的な帰属の誤りとは、他者の行動の原因を判断する際、その人が置かれた状況の影響を軽視し、性格や能力といった内的な要因を過大評価してしまう心理的な偏りのことである。
このバイアスは、ユーザー行動の真の原因を見誤らせ、的外れな製品改善に繋がるリスクをはらむ。この概念を理解することで、より深く客観的なユーザー理解が可能となり、本質的な課題解決へと導かれる。
つい「人」のせいにする思考のショートカット
人の行動の原因を考えるとき、私たちの注意を最も強く引くのは、行動している「その人」自身である。
一方で、その人を取り巻く複雑な状況や背景は、目に見えにくく、理解するには多くの認知的な労力を要する。
そのため、私たちの脳は無意識のうちに、処理しやすい「その人の性格や意図」に原因を求めてしまう。
これは、複雑な世界を単純化して素早く理解しようとする、一種の思考の近道(ヒューリスティクス)である。このメカニズムが、根本的な帰属の誤りの本質と言える。
語源・提唱者
この「根本的な帰属の誤り」という用語は、1977年に社会心理学者のリー・ロスによって提唱された。
しかし、その概念の源流は、フリッツ・ハイダーが提唱した帰属理論に遡る。人々が他者の行動の原因をどのように解釈するかを理論化したものだ。
この傾向を実験で明確に示したのが、1967年のエドワード・ジョーンズとヴィクター・ハリスによる研究である。
彼らは被験者に対し、書き手が立場を強制されたと伝えた上でフィデル・カストロに関するエッセイを読ませたが、それでもなお被験者はエッセイの内容を書き手自身の本心だと判断する傾向が強かった。この結果は、状況の制約を無視して、行動から直接的に個人の内面を判断してしまう強力なバイアスの存在を裏付けた。
「状況」に目を向け、本質的な課題を探る
このバイアスを理解する最大の価値は、ユーザー行動の解釈に深みと正確さをもたらす点にある。
ユーザーが製品の特定の機能を使わないとき、「変化を嫌うからだ」とユーザーの性質に原因を帰属させるのは簡単である。
しかし、それでは本質的な問題を見過ごしてしまう。
このバイアスの存在を自覚することで、私たちは「ユーザーが機能を使えない(使わない)『状況』を、製品側が作り出していないか?」という、より建設的な問いを立てられるようになる。この視点の転換こそが、表面的な観察から、製品が抱える真の課題を発見するための鍵となる。
行動の「なぜ」を問い直す思考フレーム
実務においてこのバイアスを乗り越えるには、ユーザー行動を分析する際に意識的な思考フレームを用いることが有効である。ユーザビリティテストなどで課題となる行動が観察された場合、以下のステップで原因を探求する。
1. 行動の客観的な記述: まず、観察された行動を事実として記述する。「ユーザーは登録ボタンを見つけられず、5分間画面を彷徨った」など。
2. 浮かび上がった「人的要因」の認識: 次に、その行動から無意識に推測したユーザーの内的要因(例:「ITリテラシーが低い」「注意力が散漫だ」)を自覚し、一旦保留する。
3. あらゆる「状況的要因」の洗い出し: ユーザーをその行動に導いた可能性のある、製品側の要因を徹底的にリストアップする。「ボタンがクリック可能に見えない」「周辺の広告が注意を逸らしている」「説明文が専門的すぎる」など。
4. 仮説の検証: 洗い出した状況的要因を仮説とし、それを検証するための追加調査やA/Bテストを計画する。
このプロセスは、安易な結論に飛びつくことを防ぎ、データに基づいた的確な改善策へと導く。
外れな改善策を避けた金融アプリの事例
ある金融アプリの開発チームが、新規登録プロセスの完了率の低さに悩んでいた。
当初、チームは「ユーザーが個人情報の入力を面倒に感じている」というユーザーの内的要因が原因だと考え、入力項目を減らすなどの改善案を議論していた。
しかし、あるリサーチャーが根本的な帰属の誤りの可能性を指摘し、ユーザーが置かれている「状況」を再調査することを提案。
詳細なユーザビリティテストを実施した結果、特定のOSバージョンで本人確認書類をアップロードする際にカメラが起動しない、という致命的な技術的不具合が発見された。ユーザーは登録したくても、システムによって物理的に阻まれていたのである。この「状況」の発見により、チームは的外れな改善にリソースを割くことなく、不具合修正という根本的な解決策に集中でき、登録率を劇的に改善することに成功した。
関連用語
- 行為者-観察者バイアス (Actor-Observer Bias)
- 自己奉仕バイアス (Self-Serving Bias)
- 帰属理論 (Attribution Theory)