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ニューロモルフィック・コンピューティング Neuromorphic Computing

人間の脳のしくみを真似して動く、新しいコンピュータ技術

人間の脳は、わずか約20ワット(電球1つ分程度)の電力で、考える・覚える・判断するといった複雑な活動をこなしている。

一方、最新のスーパーコンピュータは、その何百倍もの電力を消費しているにもかかわらず、脳のように柔軟に学習したり、状況に合わせて考えたりすることは苦手である。

この大きな違いを埋めるために生まれたのが、ニューロモルフィック・コンピューティングだ。

脳のしくみをそのまま再現する

ニューロモルフィック・コンピューティングは、コンピュータを「人間の脳のように」作ろうとする技術である。

脳の中では、以下のような仕組みが連携して働いている。

  • ニューロン(神経細胞):情報を処理する
  • シナプス:情報のやりとりをするつながり

ニューロモルフィック・コンピューティングは、これらの仕組みを電子回路で再現しようとする。
つまり、従来のコンピュータとは異なり、脳に近い形で考えるコンピュータを作ろうとしているのだ。

ニューロモルフィック・コンピューティングの仕組み

ニューロモルフィック・コンピューティングの仕組み

脳は「つながり」を変えて学ぶ

人間の脳には、約1,000億個ものニューロンが存在し、それらはシナプスというつながりで結ばれている。何かを学ぶとき、この「つながりの強さ」が少しずつ変化していく。
脳は以下のような経験をもとに学び、成長する。

  • よく使う情報はつながりが強くなる
  • あまり使わない情報は弱くなる

この仕組みは「シナプス可塑性」と呼ばれ、脳が学習できる理由の核心となっている。

シナプス可塑性

学習により強化されるシナプス(シナプス可塑性)

スパイキングニューラルネットワーク(SNN)

ニューロモルフィック・コンピューティングの中核となるのがスパイキングニューラルネットワーク(SNN)である。SNNは、脳のニューロンが発する「スパイク」と呼ばれる電気信号を模倣して動く人工ニューラルネットワーク(神経ネットワーク) と言える。
従来の人工ニューラルネットワークは常に情報を流して計算する仕組みだが、SNNは必要なときだけスパイク信号を出して処理する。

このイベント駆動型の仕組みにより、次のようなメリットが生まれる。

  • 必要な時だけ動くため、電力消費が大幅に減る
  • スパイクのタイミングから、より豊かな情報を取り出せる
  • 複数のニューロンが独立して並列に動作するため、処理速度が上がる
必要な時点でのみスパイク信号を発生するSNN

必要な時点でのみスパイク信号を発生するSNN

従来型コンピュータとの違い

従来のコンピュータ(フォン・ノイマン型コンピュータ)は、CPU(計算する部分)とメモリ(情報を保存する部分)が分離している。CPUが判断するたびに、メモリからデータを取りに行く必要があり、この仕組みは通信の遅れや大量の電力消費の原因となっている。ニューロモルフィック・コンピューティングでは、計算と記憶を同じ場所で行う。

各ニューロンが自分の情報を持ち、その場で判断するため、通信遅延や余計な電力消費が起きない。

会社組織に例えると、従来のコンピュータは社長と倉庫が離れていて資料を取りに行くのに時間とエネルギーがかかる。

ニューロモルフィック・コンピューティングは社員一人ひとりが自分の資料を持っていて、その場で判断できるイメージだ。

脳を模倣したアーキテクチャ

脳を模倣したアーキテクチャ

主な特徴

ニューロモルフィック・コンピューティングには、次のような特徴がある。

  • 圧倒的な省エネルギー:必要な部分だけ動くので、消費電力が従来のAIの数千分の一から数万分の一になる。たとえば、IBMのTrueNorthチップは、普通のパソコン用チップの1万分の1の電力で動作する。
  • リアルタイム処理:クラウドにデータを送って処理する必要がなく、チップ上で直接判断できる。自動運転やドローンのように瞬時の判断が求められる場面で役立つ。
  • 柔軟な学習と適応:その場で新しい情報を学び、環境の変化に対応できる。従来のコンピュータは事前学習したモデルを使うだけだが、ニューロモルフィック・コンピューティングは継続的に学習し、より自然な動作ができる。

ニューロモルフィック・コンピューティングの特徴

提唱・開発の歴史

ニューロモルフィック・コンピューティングの考え方は1980年代後半に生まれた。カリフォルニア工科大学のCarver Meadカーバー・ミード教授らが、目や耳の働きを再現するシリコン網膜やシリコンニューロンを開発した。1989年には、神経システムの実装方法をまとめた著書『Analog VLSI and Neural Systems』が出版され、この分野の理論的基盤が確立された。

カバー・ミード氏

カバー・ミード氏

引用元:https://www.kyotoprize.org/en/laureates/carver_mead/

実装の進展と産業化

IBM「TrueNorth」(2014年発表)

IBM TrueNorthは、ニューロモルフィック・コンピューティングの技術を使ったチップ(コンピュータの頭脳にあたる)である。このチップは、切手くらいの大きさなのに、100万個の人工ニューロンと2億5,600万個の人工シナプスを持っている。

脳の仕組みを真似て、考えたり覚えたりする働きをする。普通のパソコン用チップよりも、ずっと少ない電力で動き、画像を認識する研究などで使われている。

TrueNorth

TrueNorth
引用元:https://www.xataka.com/

Intel「Loihi」シリーズ

Intel Loihiシリーズは、まるで鼻や手足のように、匂いを感じたり動きをなめらかにコントロールしたりできるチップだ。新しいことをその場で覚えられるのが大きな特徴で、たとえば危険なガスの匂いをすぐに覚えて知らせる、といった使い方も研究されている。

環境の変化を見守るセンサーやロボットなど、さまざまな場面で活躍が期待されている。2023年には、さらに賢く省エネになったLoihi 2も登場した。

その他の主要プラットフォーム

その他にも、脳のしくみを真似た大きなコンピュータが作られている。

イギリスのマンチェスター大学が開発した「SpiNNaker」は、たくさんの小さな部品を組み合わせて、脳の信号のやりとりを再現している。まるで巨大な脳の模型のように、神経の動きを実験するために使われている。

たとえば、「記憶がどう生まれるか」「脳がどのようにして手や足を動かす指令を出すか」といったしくみを調べる実験や、アルツハイマー病などの脳の病気の原因を探る研究にも活用されている。

ドイツの「BrainScaleS」は、脳の動きを非常に速く再現できるコンピュータだ。本物の脳よりも約1,000倍も速く動くので、脳がどう働くかを短時間で調べることができる。この速さを活かして、脳の研究や神経の仕組みを学ぶために活用されている。

ニューロモルフィック・コンピューティングの主な4つのタイプ

ニューロモルフィック・コンピューティングには、脳の仕組みを真似た様々なタイプのコンピュータがあり、得意なことや活躍する場面が異なる。主に以下の4つのタイプに分けられる。

ニューロンコンピュータ

脳の「神経細胞(ニューロン)」の働きを再現するタイプ。ニューロン同士が電気信号をやりとりする仕組みを真似て、情報を処理する。

これは主に研究用として作られていて、大学や研究機関で脳のしくみを調べるための実験に使われている。

たとえば、イギリスのマンチェスター大学が開発した「SpiNNaker」は、ニューロンの動きを大量のプロセッサ(CPUなどデータ処理や演算、制御を行う「頭脳」)で再現するシステムである。

シナプスコンピュータ

脳の「つながり(シナプス)」が強くなったり弱くなったりするしくみを再現するタイプ。よく使う情報のつながりが強くなることで、コンピュータも使えば使うほど賢くなる。

IBMのTrueNorthやIntelのLoihi、Loihi 2がこのタイプで、画像認識や匂い検知、環境監視など、リアルタイムで学習しながら判断する必要がある場面で活躍している。

アナログニューロモルフィック・コンピュータ

脳の動きを、自然な電子回路で再現するタイプ。、本物の脳のような信号のやりとりや、速さを目指している。
たとえば、BrainScaleSは脳よりも約1,000倍速く動き、脳の病気の仕組みを短時間で調べたり、記憶が生まれる瞬間を観察したりする研究で使われている。

デジタルニューロモルフィック・コンピュータ

脳の仕組みをデジタル技術で再現するタイプ。大量の情報を効率よく処理できるので、AIの開発や、スマート家電、センサー技術など幅広い用途がある。

シナプスコンピュータと重なる部分も多いが、IBMのTrueNorthやIntelのLoihi、Loihi 2はデジタル技術で脳の仕組みを再現している代表例だ。これらは商品化されていて、画像認識やAIの研究などに使われている。

ニューモルフィックコンピューティングのタイプ

ニューモルフィックコンピューティングのタイプ

実用化の期待分野

ニューロモルフィック・コンピューティングは、次のような分野での実用化が期待されている。

  • 自動運転車・ドローン:障害物を瞬時に認識し、通信遅延なく対応できる。命に関わるリアルタイム判断が求められる場面で、低遅延と省電力性が役立つ。
  • 医療・ヘルスケア:体内センサーや健康管理デバイスで心拍や脳波を常時監視し、病気の兆候を即座に検知できる。省電力性により、患者の負担を減らせる。
  • スマート工場:機械の音や振動から故障の兆候を察知し、トラブルを防ぐ。認識能力と学習能力によって、予防保全の精度が上がり、工場の効率が向上する。

実用化に向けた課題

最大の課題は、ソフトウェア開発の難しさである。
従来のコンピュータと全く異なる仕組みなので、既存のプログラムや開発手法は使えず、専用ソフトウェアと技術者の育成が急務となっている。

また、特殊なニューロモルフィック・チップを安価に大量生産する技術の確立も必要だ。今はまだ高価なので、広く普及するには製造コストの低下が求められる。

さらに、複数のメーカーが異なるプラットフォームを開発しているため、統一された標準やAPIの確立も重要な課題となっている。

まとめ

ニューロモルフィック・コンピューティングとは、脳の「考え方」と「学び方」を真似することで、より賢く、より省エネに動くコンピュータを作る技術である。
これまでの「計算する機械」から、「学びながら考える存在」へと進化する可能性を持っている。

ニューモルフィック・コンピューティングの課題と展望

ニューモルフィック・コンピューティングの課題と展望

関連用語

ニューラルネットワーク

参考リンク

フリーランスのエンジニア。 2001年東京都立大学(現首都大学東京)経済学部卒業。独立系ソフトハウス(システム開発)、株式会社シンプレクス(金融機関向け取引システムの開発・運用)を経て2011年よりフリーランス。フリーランスになってからは、スマホアプリ、サーバーサイド(Java,Railsなど)と様々なプロジェクトで開発に携わる。現在は会社員時代にお世話になった企業様でRPAプロジェクトで開発を担当している。 ダイエットのためにランニングとヨガを5年ほど続けているが、どちらもガチになる一方で全く痩せないことが最近の悩み。

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