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システム・オブ・エンゲージメント System of Engagement

難しいデータを分かりやすく整えて、人とやり取りする表側

会社のデータの扱いは、役割のちがう三つのまとまり(層)に分けて考えられる。System of Engagement(システム・オブ・エンゲージメント)とは、その中で利用者にいちばん近い層——人と直接やり取りする表側——を指す。下には、事実をそのまま記録する「記録の層」と、記録を突き合わせて整える「基準の層」があり、この二つに支えられて成り立つ。裏側の複雑さを引き受け、人に分かる形にして差し出すのが、この層の役割である。

たとえば、スマホのアプリでAIに「将来の出費と今の家計を見て、無理のない積立は月いくらが妥当?」と相談すると、普通預金の残高や毎月の収支、住宅ローンの返済、保険まで踏まえて、「月3万円までなら無理がありません」といった答えが、分かりやすいことばで返ってくる。裏ではバラバラのデータが動いているのに、こちらは難しさを感じない。むずかしい中身を、人が分かる形に整えて差し出す——これがSystem of Engagementの働きだ。

語源・提唱者

この言葉は、Geoffreyジェフリー Mooreムーアが2011年、業界団体AIIMのレポート『Systems of Engagement and the Future of Enterprise IT』で広めた。Mooreは、ITの重心が、取引を記録するSystem of Recordから、人との相互作用を担うSystem of Engagementへ移っていると論じた。記録の時代から、対話の時代へ——その転換を一語で言い当てた点に、この用語の価値がある。

ジェフリー ムーア 引用元:https://geoffreyamoore.com/

対話の裏側にある三つの層

銀行を例にすると、対話の裏側は、次の三つの層で成り立っている。

  1. System of Record(記録の層)
  2. System of Reference(基準の層)
  3. System of Engagement(対話の層)

System of Record(記録の層)は、商品や業務ごとに分かれた、それぞれの原本(おおもとの記録)にあたる。普通預金の入出金、住宅ローンの返済、保険の契約——銀行はこれらを、別々の担当システムでそれぞれ正確に記録する。一つの台帳は、自分の担当範囲しか知らない。

System of Reference(基準の層)は、その別々の記録を一人の顧客ぶんに突き合わせ、「この顧客の全体像」としてまとめ直す。普通預金・住宅ローン・保険にまたがる情報を一人ぶんに束ねたもので、これを顧客マスタと呼ぶ。Source of Truth(信頼できる唯一の情報源)が指すのも、この統合された層だ。

こうしてまとめた顧客像を、System of Engagement(対話の層)が受け取り、分かりやすく差し出す。AIに「この顧客の今の契約状況は?」と聞いて正しい答えが返るのは、この統合された基準データがあるからだ。土台の二層が食い違っていれば——たとえば同じ顧客が別人として二重登録されていれば——どれだけ分かりやすく受け答えしても的外れになる。

基準の層の必要性

基準の層を置かず、商品ごとの台帳をばらばらのままにすると、同じことがらの情報があちこちで食い違う。同じ顧客が、普通預金の台帳では「田中太郎」、保険の契約では別の表記と別IDで登録され、機械には別人に見える(名寄せの失敗)。引っ越したのに、住所が普通預金側だけ新しく、保険側は古いまま残る(更新の遅れ)。ある数字に、どの台帳から来たのかという出所が付いていない(来歴の欠落)。

こうして食い違ったデータは、AIの答えの精度を狂わせる。たとえば一人の顧客が二人に分かれて登録されていれば、AIは住宅ローンを抱えた本人を「ローンのない身軽な顧客」と取り違え、積立額を多すぎる金額で勧めてしまう。しかも、ただ答えるだけでなく手続きまで実行するAIエージェントは、その誤りを止める人の目がないまま、後続の処理へそのまま流すため、大きな問題にもつながる。

人間が基準の層を代替していた

かつては、ベテランの行員が「住所はこの前ローンの窓口で直したはずだ」と覚えていたし、確信が持てなければ、ローン担当に電話で確かめたり、隣の席に聞いたりした。一人の記憶と、人どうしの確認の両方で、非公式な基準の層を回していた。これが成り立ったのは、人間が出所や事情を知っていて、迷えば手を止めて確かめ、判断の量も人の処理速度に収まっていたからだ。

だからこそ、人間が頭の中でこなしていた突き合わせを、外へ取り出し、機械が読める層——System of Reference——として作り直す必要がある。三層構造自体は新しくない。新しいのは、AIが中間の人間を抜いたことで、この基準の層を目に見える形で作らざるをえなくなった点だ。

基準の層を作るとは、暗黙知を書き出すこと

AIのための基準の層を作るには、かつて人間が頭の中と会話で担っていたものを、そのままデータの形へ書き出す必要がある。

一つは、ベテランの判断の言語化だ。「住所はローン窓口で直した方が新しい」という勘を、「どの台帳を正とするか」「どの項目はいつの更新を優先するか」というルールに翻訳し、出所と鮮度をデータそのものに持たせる。

もう一つは、人どうしのやり取りの洗い出しだ。誰が、どんなときに、どこへ確かめていたか——電話やちょっとした確認として流れていた手順を細かくたどり、「この食い違いはこう解消する」という突き合わせの決まりに変える。

つまり基準の層づくりは、純粋な技術作業ではなく、現場の暗黙知を聞き取って明文化する地道な仕事でもある。人が頭の中に持っていた判断基準を機械が読める形にして、はじめてAIは、人間ぬきでも正しく突き合わせられる。

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オントロジー

BtoB人事業務アプリのコンサルタント→エンジニア→BtoCのWebディレクターを経て、再度BtoB業務アプリとなる物流プラットフォームのUIUXに挑戦。オンライン/オフライン双方でのBtoBUXを改善すべく奮闘中。

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