人は自分自身の中で矛盾がない状態を求める性質がある。自分の信念や認識している事実、過去にとった行動といった認知間に矛盾が生じていると、不快感(不安、フラストレーションなど)を感じ、解消しようとする。この不快感のことを認知的不協和といい、アメリカの心理学者でマサチューセッツ工科大学教授のLeon Festinger氏によって提唱されたものである。
パソコンを新しく購入した後に、同じパソコンの新機種が発売されることを知った時、「もう少し待って最新のものを買ったほうがよかった」という気持ちになるだろう。「新しいパソコンを購入した」という行動に対し、「購入したパソコンよりもさらに新しい機種が発売される」という事実が突きつけられたことにより、認知に矛盾が生じて不快感を感じる。
「健康のためには運動しなくてはならないことはわかっているけど、運動するのは面倒くさい」という葛藤も認知的不協和で、「運動するのは面倒くさい」と「健康のためには運動しなくてはならない」という2つの認知に矛盾が生じている。
自分自身の中での価値(認知の重要度)が大きいと認知的不協和も大きくなる。先程の「パソコンを新しく購入した後に、同じパソコンの新機種が発売されることを知った」場合において、「パソコンがあまり重要ではない人」よりも「パソコンが重要という人」の方が、不快の度合いが高くなる。
認知的不協和の解消方法
人は認知的不協和が起こっている状態が不快であるため、不協和な状態を解消する行動をとる。方法として、以下の3つがある。
- 変えやすい方の認知を変える
- 新しい認知を集める
- 認知の重要度を変える
「パソコンを新しく購入した後に、同じパソコンの新機種が発売されることを知った」を例に考えてみよう。
変えやすい方の認知を変える
矛盾する認知のうち、どちらかを変えてしまえば認知的不協和は解消される。
「新機種が発売される」という事実を個人で変えることはできないが、新機種が発売された後に「買ったパソコンを処分して、発売された新機種を購入する」という行動をとることが該当する。
新しい認知を集める
認知そのものを変えることができない場合も多い。そこで、どちらかの認知と協和する情報を集めると認知的不協和は緩和される。
「購入したパソコンの良い評判を探す」「新機種の悪い評判を探す」という行動をとることにより、「パソコンを購入してよかった」または「新しいパソコンを買わないほうがいい」と思うようにすることが該当する。
認知の重要度を変える
どちらかの(または両方の)認知の重要度を変えることによっても、認知的不協和は緩和される。
購入からしばらくたって「パソコンを購入したことに対する気持ちが小さくなった」「パソコンよりも気になることが出来た」ということが該当する。
認知的不協和は満足度向上に使われる
自分のとった行動が正しかったという肯定感を与えると、認知的不協和を緩和することができる。
例えば、製品を購入後にサポートメールを送信したり、セミナー開催後に復習会を開催したりすると、「購入してよかった」「受講してよかった」というような肯定感を顧客に持ってもらうことができ、顧客満足度の向上につながる。