「AかつB」よりも「A単独」または「B単独」の方が、発生確率は高い(または同等)であるにもかかわらず、物語的・直感的な説明「もっともらしさ」「ぽさ」による認知バイアス。
Aの確率 | Bの確率 | AとBの確率(連言) | |
---|---|---|---|
論理的な結果 | 0.6 | 0.3 | 0.18 |
連言錯誤の結果 | 0.6 | 0.3 | 0.4 |
表からもわかる通り、AとBの両方が起こる確率は、それぞれ単独で起こる確率よりも低くなるべきだが、連言錯誤では逆転し、論理的ではない判断を下してしまう。合接の誤謬(ごうせつのごびゅう:conjunction fallacy)とも呼ぶ。
提唱者と起源

左:ダニエル・カーネマン、右:エイモス・トベルスキー(出展:http://grawemeyer.org)
ダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman)とエイモス・トヴェルスキー(Amos Tversky)によって1970年代に提唱された。
彼らは「リンダ問題」という実験によってこの錯誤を明らかにし、人間の非合理な判断特性を認知バイアス研究の中核に据えた。
有名な実験(リンダ問題)
リンダは31歳。独身で聡明、哲学を学んだ。学生時代には差別や社会正義の問題に熱心で、反核デモにも参加していた。
Q. 次のどちらがより可能性が高いか?
A)リンダは銀行員である
B)リンダは銀行員で、フェミニストである
多くの人がBと答えるが、確率論的にはAの方が起こりやすい。これが連言錯誤である。
デザインにおける活用法
1. ユーザーシナリオにおける錯覚の排除
利用方法:過剰なペルソナ設定やストーリー設計により、ユーザーの振る舞いが不自然に複雑になることを防ぐ。
具体例:
- 「このユーザーは女性で30代、環境問題に興味があり、ソーシャルアプリも頻繁に使う」など複数特徴を想定してUIを作ると、多くのユーザーから乖離する恐れがある。
- よりシンプルな前提(例:「出先で素早く情報を得たい」)に立脚した設計が望ましい。
2. フィードバック設計での優先度判断
利用方法:ユーザーに「AかつBの機能」が欲しいと思わせる文脈で、単独機能Aの価値を下げてしまう状況を避ける。
具体例:
-
「PDFダウンロードができて、かつ印刷用レイアウトに最適化されている」UIを想定してフィードバックを集めると、前提が複雑になりすぎて真のニーズが見えなくなる。
3. サーベイや意思決定支援における文脈調整
利用方法:ユーザー調査やA/Bテストの設問設計で、連言構造になっていないか(バイアスを誘っていないか)を点検する。
具体例:
- ✕「このアプリは使いやすく、かつ安心感があると思いましたか?」
- ◯「このアプリは使いやすかったですか?」と「安心感がありましたか?」を分ける方がデータ精度は高くなる。
実践シーン
シーン | 利用ポイントと連言錯誤の回避 |
---|---|
ペルソナ・シナリオ設計 | 複数の属性を組み合わせすぎず、基本ニーズに集中 |
ユーザーテストやヒューリスティック評価 | 複数特徴の同時評価を避け、単一の特性ごとに観察 |
フォームや選択肢設計 | 「同時に満たす」選択肢を避け、単独評価を可能にする |
AIモデルのプロンプト設計 | 条件文に複数制約をかけすぎないことで汎用性を担保 |