もともとはアメリカで歩道の縁石(カーブ)を斜めに切り下げて、車椅子利用者のために作られた「カーブカット」が起源。
ところが実際には以下のような方やシーン(コンテキスト)でも便利に利用できる。
- ベビーカーを押す親
- キャリーケースを引く旅行者
- 自転車に乗る人
- 足の不自由なお年寄り など…
このように、誰もが便利に使うようになったことから、「カーブカット効果」と呼ばれるようになった。
Kelly Dern氏 UX DAYS TOKYO2025講演スライドで利用されていた画像を引用
デジタルデザイン・UX設計における事例
「特定のニーズに応える設計」が、より多くの人の利便性を向上させた例
1. 字幕・キャプション機能
本来の目的: 聴覚障害のある人のための情報補助
結果: 騒がしい場所や音を出せない場所(電車・オフィス)でも視聴しやすく、語学学習にも役立つ
2. 音声入力・音声アシスタント
本来の目的: 手が使えない状況や障害のある方の支援
結果: 運転中や料理中など、「手が離せない状況」でも使えるため、誰にとっても便利に
3. ダークモード(夜間モード)
本来の目的: 目の疲れや視覚過敏を軽減するための配慮
結果: 多くのユーザーが好んで使い、バッテリー消費を抑える効果もあって普及
4. フォームの自動補完(オートフィル)やエラーメッセージの明示
本来の目的: 読み書きの困難さ、記憶の負担を減らすため
結果: 忙しいユーザーやスマホ利用者にも優しく、離脱率の低下につながる
5. 読み上げ(スクリーンリーダー)対応のUI構造
本来の目的: 視覚障害者向けにナビゲーションやコンテンツを把握しやすくするため
結果: モバイル端末や音声UIでのUXが改善。HTMLの意味づけ(セマンティック)も整い、SEOにも効果
なぜカーブカット効果は重要なのか?
カーブカット効果を意識した設計は、単なる「やさしさ」ではなく、ビジネス上の効果も大きい。
- 幅広いユーザーの満足度向上
- 離脱率の低下
- ブランドの好感度向上
- より多様なニーズを取り込める
つまり、インクルーシブデザインは誰かのためであって、すべての人のためでもあるということ。
カーブカット効果を活かすUX設計チェックリスト
1. 特定のニーズから設計を始める視点はあるか?
- 高齢者、障害者、初心者など「少数派」に思えるユーザーの行動や課題を想像したか?
- アクセシビリティチェック(WCAGなど)を設計初期から取り入れているか?
ポイント:特定ユーザーに優しい設計は、ほとんどの場合「みんなに優しい設計」になります。
2. マルチデバイス・マルチコンテキストでの使いやすさを想定しているか?
- モバイルでもPCでも、同じように迷わず操作できるか?
- 騒がしい場所・片手操作・暗い場所などの使用シーンを想定しているか?
例:音声+字幕/ボタンの視認性/余白やタップ領域の適切さ
3. 学習コストが少なく、直感的に使える設計か?
- 操作方法が「見ればわかる」「触ってわかる」ものになっているか?
- 一度覚えた操作が別の画面でも通用する一貫性があるか?
例:シンプルなナビゲーション/戻る・キャンセルの明確さ
4. サポートが不要なほど「案内」が丁寧か?
- UI内に小さな説明(マイクロコピー)やガイダンスがあるか?
- 初心者にも自力で完結できる導線になっているか?
例:「注文はスマホでお願いします」ではなく「QRコードを読み取ってメニューをご覧ください」のような具体的表現
5. “万が一”のケースを想定したバックアップがあるか?
- スマホを忘れた/電源が切れたなどの状況にも対応できる?
- 予約や支払いなど「例外対応」がデザインに含まれているか?
例:受付端末、口頭でも予約可能、紙の案内など
6. 少数派のCJM(カスタマージャーニー)を描いているか?
- リテラシーが低いユーザーの視点で一連の利用体験を検討しているか?
- サービスが「自己完結」しすぎて、説明や導線が不足していないか?
例:外国人ユーザー、視力の弱い人、ITに不慣れな中高年の利用シナリオを想定
7. 機能ではなく“使われる体験”で評価しているか?
- 提供した機能が、実際に誰にどう使われているかを見ているか?
- 自己満足なリリースで終わらず、フィードバックをもとに改善しているか?
例:使われないボタン、離脱されている導線があれば要改善のサイン
UX設計で“誰かに優しく”は“みんなに優しい”
「インクルーシブデザイン=特別扱い」ではなく
「ユニバーサルに使いやすい設計」こそ、プロダクトの本質的な価値を高める。