自分の意見や判断が正しいと思い、周りの人も同じような意見や判断を下すと錯覚してしまう傾向がある。例えば、とても美味しいと思っているお菓子を人に勧めたのに、あまり美味しくないと言われて驚いた、という経験はないだろうか。
この傾向は、1970年代後半にLee Rossとその同僚が行った実験によって、証明された。
リー・ロスたちが行なった実験では、被験者の学生に、サンドイッチマンの格好をしてキャンパスを歩き回るように依頼した。依頼を承知した学生と断った学生、2つのグループに分けて、「同じことを別の学生に頼んだら、承知してくれると思うか?」と質問をした。
グループごとに質問に対する回答は以下の通りになった。最初に依頼を承知した学生は、他の学生も自分と同じように依頼を承知すると考える傾向があり、一方で最初に依頼を断った学生は、他の学生も自分と同じように依頼を断ると考える傾向があった。
承知した学生
「他の学生は承知してくれる」と答えた割合…6割
「他の学生は断る」と答えた割合…4割
「他の学生は承知してくれる」と答えた割合…3割
「他の学生は断る」と答えた割合…7割
他人の頭の中を覗くことは出来ないので、本来は自分の経験値と相手の仕草や言葉から他者の考えを推量していくしかない。しかし、他人の考えを推量するための考察や客観的データがない状況において「他人も自分と同じように思っているに違いない」と思い込んでしまうことがある。
親しい間柄で強く生じる傾向にある
親しい間柄でフォールス・コンセンサス効果が特に強く出ると言われている。これには、利用可能性ヒューリスティックが関与している。利用可能性ヒューリスティックとは、利用しやすい、または思い出しやすいデータを意思決定に利用してしまう法則(経験則)のことである。
自分の考えや経験を他人に共有しようと思う時、まず候補として浮かび上がる人は家族や友人など親しい間柄の人たちだろう。身近な人々とは日常的に価値観を共有していることが多いため、自分の思考・判断と同じように身近な人も考えると思い込んでしまう状況が発生しやすくなる。
グループでの意思決定でも発生しやすい
集団においての議論でも、フォールス・コンセンサス効果の発生頻度が高くなる。ある特定の少数グループの中で合意が取れていることは、より大きく一般的なグループ、例えば大衆、市民、日本人でも同意をするだろうと思ってしまうのである。
特に、アンケートや統計資料などの客観的データが少ない場合に、その傾向が出やすい。一度そのように思い込んでしまうと、後から客観的データが出てきても「データが間違っている」と感じてしまうことさえある。
「当然」は、決して当然ではない
前述にもあるように、この思い込みを持って物事を判断してしまうと、様々な場面で思わぬ間違いを起こすことがある。「良かれと思った言動が、相手にとっては迷惑だった」というような対人関係はもちろんだが、UXデザインにおいても注意が必要だ。
デザイナー側が良い、当然だ、と思っている事象は、必ずしもすべての人間がそう思っているとは限らない。むしろ、そうではないと常に肝に命じておく必要があるだろう。
当然と思っていることほど、統計資料、データ、エスノグラフィ、ユーザビリティテストなど客観的データを確認する癖をつけて、フォールス・コンセンサス効果に陥らないことが大切だ。