人や動物は強いストレスを受けると、心身ともに興奮状態へ陥り、行動や思考が以下のように4段階で変化する。
ステージ1. 凍結(Freeze)…状況を把握しようとする
ステージ2. 逃走(Flight)…脅威から逃げようとする
ステージ3. 闘争(Fight)…脅威と戦おうとする
ステージ4. 放棄(Forfeit)…2と3が失敗すると脅威に屈服する
通常はステージ1の「凍結」から始まり、反応が次のステージへ徐々に変化する。
脅威の大きさによって、特定のステージを強制的にスキップしたり、避難訓練や戦闘訓練を行なっておくことで、各ステージにかかる時間を短縮することができる。
4段階で変化する反応
ステージ1.凍結(Freeze)
強いストレスや脅威に対して最初に行う行動。動くことをやめ、目を凝らしたり、耳を澄まして周囲の状況を把握しようとする。
個人の身体能力や経験、緊急性の有無で「凍結」の時間は異なる。例えば、未経験の脅威に遭遇した場合は、状況を把握するまでに時間がかかる。「ナイフを持った人に襲われそう」など、すぐに対処しなければならない場合は「凍結」の時間が短くなる。
ステージ2.逃走(Flight)
ステージ1の凍結により「命の危険がある」と判断した場合、無意識に脅威から離れようとする。「逃走」は、「凍結」や「闘争」と比べて比較的簡単に実行できる。原因が特定できなくても脅威を回避できるため、様々な状況に対応できる。
ステージ3.闘争(Fight)
接近する脅威から逃げられないと判断した場合は、脅威の対象を無力化するべく攻撃を行い自分の身を守ろうとする。すぐに行動できる「逃走」とは異なり、「闘争」を実行するには武器の準備や、戦略を考える時間が必要となる。実践的な戦闘訓練を受けている警察や軍人などは、一般人より素早く対応できる。
ステージ4.放棄(Forfeit)
逃げることも戦うことも失敗した場合、脅威に屈服し、自身を無害に見せる行動をとる。
強直して体が動かなくなったり、身の安全を守るために頭や首、胸や腹部など体の弱い部分を隠す行動を取ることもある。「死んだふり」も脅威から身を守るための放棄に該当する。
参考リンク:女子学生、「死んだふり」で難逃れる――オレゴン銃乱射事件で
”わかりやすさ”で生存率を上げる
原子力発電所、飛行機、医療機関などで緊急事態が起きた際には、ひとつの対処方法だけで全ての状況に対応せず、「凍結・逃走・闘争・放棄」の段階に応じた対処を行っている。
例えば、飛行機で事故が起きたとする。避難中に恐怖で硬直したり、パニックを起こして逃げたり、他者からの指示を拒否する乗客が出てくる。
異なる状態の乗客に対し、乗務員はすばやく、簡単な言葉でわかりやすい指示ができるように緊急脱出訓練を行っている。
- 凍結への対応…事故発生直後に、乗務員が乗客の代わりにいち早く状況を判断し、「頭を下げて!」と声掛けを行う。
- 逃走・闘争への対応…乗客がパニックになり、勝手に行動しないように「大丈夫落ち着いて」「シートベルトを外して、バッグは持たないで」と指示を出しつつ、避難口まで誘導する。避難する段階になると、乗客を出口に並ばせて「あなたとあなた、先に降りて」「ジャンプ!ジャンプ!」と迅速に脱出させる。
- 放棄への対応…最後に機内全体を見回り、恐怖で動けない者、逃げ遅れた者がいないか確認した後に、乗務員全員が避難を行う。
参考リンク:JAL 客室乗務員 緊急脱出訓練 陸上編 (離陸中断) ほぼノーカット CA EVAC Training at Land
高ストレス下では認知負荷を避ける
人は緊急時に視野が狭くなり、判断力が鈍くなる。余計な事を考えさせないように、認知負荷をかける複雑なシステムは避けて、アラートやアラームを使い過ぎないようにする。
例えば、車道で標識や看板をいくつも表示すると、運転手に認知負荷をかけてしまい、正しい判断を鈍らせ、誤った操作を誘発してしまう。
ストレスは離脱率を上げる
アプリやウェブサイトを使用する場合でも、ユーザーは「凍結・逃走・闘争・放棄」の反応を辿る傾向がある。
Steve Krugの著書「超明快Webユーザビリティ」の第6章「道路標識とパンくず」に、ウェブサイトを訪れたユーザーの行動プロセスが記載されている。
ユーザーは大抵「探し物を見つける」ためにウェブサイトに訪れ、「どこをクリックすれば探し物が見つかるだろうか?」とウェブサイトを観察しながら考える(凍結)。
ユーザビリティが悪かったり、意図しないエラーが出てしまうと、そのまま離脱(逃走)するユーザーもいれば、あちこちクリック(闘争)するユーザーもいる。
目当ての情報を見つけるために、試行錯誤したユーザーも「探し物は無さそうだ」と判断すれば、がっかりした体験とともに、サイトで探すことを諦め二度とアクセスしなくなる(放棄)。
ユーザーにストレスを与えず、考えなくても自然に使えるような情報設計とユーザビリティを目指すべきである。
関連用語
- ネガティブ・バイアス
- システム1・システム2
- 古典的条件付け
- 脅威検出