複数の観察・経験に基づき、共通するパターンを見出し、そこから普遍的な法則を仮定する。
個別の具体的な事象や観察結果から、一般的な法則や結論を導き出す推論方法である。この手法は科学的探究、ユーザーリサーチ、UX設計においても広く活用されている。
提唱者と歴史的背景

フランシス・ベーコン(引用)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%99%E3%83%BC%E3%82%B3%E3%83%B3_(%E5%93%B2%E5%AD%A6%E8%80%85)
古代ギリシャの哲学者アリストテレスが初期に概念を示し、イギリスの哲学者フランシス・ベーコン(Francis Bacon)が17世紀に体系化した。
ベーコンは『ノヴム・オルガヌム(Novum Organum、「新しいオルガノン=新しい論理学」)』において、経験に基づく観察と実験を重視した「帰納法」による科学的方法を提唱した。
それまで主流だったアリストテレス由来の演繹法的思考では、「はじめに大きなルールを決めてから、それを使って考える」一般的な原理(前提)から個別の結論を導く形が主だった。
特に彼は、「人間の思い込み(イドラ)」が科学的思考を妨げるとし、それを排除した冷静な観察こそが真の知識につながると強調した。自然観察から共通パターンを導き、徐々に一般法則に至る「帰納的な方法」こそ、真に有効な科学的探究であると説き、「まずは、いろんなことをよく見て、そこからルールを見つけよう!」とした。つまり、帰納法は、仮説を裏付けるためではなく、仮説自体を形成するための基礎であるという点が、ベーコンの革新的な視点である。
この考え方は、今の科学の実験や、データをもとにした考え方(たとえば、ゲームでどんなアイテムがよく使われているかを見るとか)も、このベーコンの考え方に近く、科学革命や近代科学の発展に大きな影響を与え、データ主導のアプローチやUXリサーチにおけるエビデンスベースの思考法の基礎にも通じている。
デザインにおける活用方法と具体例
1. ユーザーリサーチ → パターン抽出
活用方法:インタビュー、観察、フィードバックを通じて収集された複数の事例から共通ニーズや問題点を発見する。
具体例:
- 「Aさん、Bさん、Cさんすべてが『保存ボタンの位置がわかりづらい』と感じた」という観察から、「保存機能の視認性がUX上の問題点である」と帰納的に導く。
2. ユーザージャーニー分析
活用方法:複数ユーザーの行動パターンを観察して、共通のペインポイントや成功要因を明らかにする。
具体例:
- 検索から購入に至るまでの複数のユーザージャーニーを分析し、「3回目の訪問でようやく購入する人が多い」という帰納的傾向から、リターゲティング施策の設計につなげる。
3. A/Bテストやログデータ分析
活用方法:データから実際の利用傾向を導出し、設計指針に応用する。
具体例:
- 「A案の方が平均クリック率が高い」「特定の曜日にだけ使用頻度が高い」といった帰納的知見をベースに、UIやタイミングの改善施策を検討する。
この場面に使える具体的なシーン
シーン | 帰納法の活用ポイント |
---|---|
定性リサーチのまとめ | 複数インタビューから共通ニーズや阻害要因を抽出 |
UI改善案の仮説立て | ユーザー行動の傾向から改善すべき箇所を特定 |
カスタマージャーニーの最適化 | 観察されたパターンから施策タイミングや導線を調整 |
製品コンセプト検証 | 小規模な実験から市場全体への仮説を立てる |
ペルソナ作成の前提構築 | 実際の利用者データをもとに代表的行動モデルを抽出 |
まとめ
個別のユーザー体験やデータから本質的なパターンや共通項を見出すための強力な思考法である。UXデザインやプロダクト設計においては、定性調査やA/Bテスト、行動ログの分析など、日常的に活用される。特に、ユーザーの「声なきニーズ」や「無意識的な行動特性」を掘り起こす際に、帰納的な思考は極めて有効である。