大規模言語モデル(LLM)を組み込んだ製品やサービスの設計・開発を一貫して行うためのルール、コンポーネント、テンプレート、ガイドライン群である。
従来のUIデザインシステム(色・タイポ・コンポーネント等)に加え、プロンプトテンプレート、システムプロンプト(役割定義)ライブラリ、出力スキーマ、検証ルール、人間の介入点(HITL:Human-In-The-Loop)、監査/ログ基盤、API呼び出し・ツール呼び出しの設計規約など、LLM特有の設計要素を包含する点が特徴である。
LLMの不確実性や応答の多様性を扱うため、設計システムは「見た目」だけでなく「振る舞い」「安全性」「一貫性」を保証するための仕組みを盛り込む必要がある。
なぜ必要か(効用)
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一貫したユーザー体験を保てる — 異なるチームが作るLLM呼び出しやプロンプト設計を共通ルールで管理すれば、ユーザーへの応答トーンや情報フォーマットが安定する。
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安全性とガバナンスを組み込める — 禁止トピックや検閲ルール、個人情報ハンドリングのチェックポイントを設計段階で規定できる。
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開発の再利用性・速度を高める — プロンプトテンプレートや出力スキーマ、検証テストを再利用可能にすることで品質を落とさずに実装スピードを上げられる。
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評価と運用をしやすくする — レスポンス品質のメトリクス、A/Bの比較手順、ログ設計を標準化するとモデル改善と運用が回しやすくなる。
構成要素(実務で扱う項目)
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コンポーネント群:UIコンポーネント(チャットバブル、カード、アクションメニュー)+LLM固有コンポーネント(プロンプトブロック、system-prompt editor、tool-call button)。
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プロンプトライブラリ:目的別(要約/生成/分類/翻訳など)テンプレート、トーンのプリセット、カットオフ長やトークン予算指示。
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出力スキーマ/バリデータ:JSONスキーマやラベルフォーマットを定義し、LLM出力を自動検証する仕組み。
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安全ガードレール:ブロックリスト、二次チェック・レビューのフロー、誤情報検出ルール。
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テストハーネス:プロンプトに対する期待値テスト、回帰テスト、評価データセット。
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運用ダッシュボード:応答精度、失敗率、ユーザー満足度(CSAT)などのモニタリング。
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ドキュメント & ガバナンス:利用ポリシー、プライバシー規約、コスト/レイテンシ目安。
具体的な利用方法(ワークフロー例)
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要件→意図定義:機能ごとに「LLMは何のために使うか」を明文化する(例:ユーザー質問の要約、内部データ検索、クリエイティブ草案作成)。
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テンプレート選定:上の目的に合ったプロンプトテンプレートをライブラリから選び、role/system のルールを適用する。
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スキーマ設計:期待する出力フォーマット(JSON 等)を定義してバリデータを組み込む。
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HITLルール化:高リスク応答は必ずレビューに回す、あるいは人が承認したうえで公開するルールを設ける。
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テストとモニタリング:サンプルプロンプトを自動テストし、運用中はログを集め品質評価に基づきテンプレートを改善する。
実際のプロダクト事例(公開されている例)
LanguageGUI:
LLMの出力をリッチなUIに変換するためのオープンソースのUIキット/設計例。LLMのテキストを指定フォーマット(表・カード等)で出力させる設計思想を示している。実装例として参考になる。
Prompt-UI / Prompt-based component libraries(紹介記事・POC):
DesignSystems系のブログやGitHubに、プロンプトをコンポーネント化して再利用する試作(POC)が複数公開されている。これらは「プロンプトをデザインシステムの一部として扱う」考え方を具現化している。
企業ガイドライン:
OpenAI や GitHub(Copilot チーム)などが公開する「プロンプト設計のベストプラクティス」は、LLMデザインシステムにおける運用ルールの基礎として使える。
ツール事例(関連):
Google の「Stitch」など、テキスト→UIやテキスト→コードを自動生成するツールは、LLMを組み込む際のUIフロー設計(どのようにユーザーが生成機能を触るか)を再設計する必要性を示している。
「この場面で使える」シーンと具体的事例
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社内向けナレッジサマリー機能の設計
シーン:社内チャットボットが会議ログを要約して配信する。
対応:テンプレート群(要約レベル:短い/中/詳細)、出力検証スキーマ(箇条書き+タイムスタンプ)、機密語句フィルタを組み込む。これにより誤情報・機密漏洩リスクを低減できる。 -
ユーザー向けコンテンツ生成機能(CMS内)
シーン:マーケティングチームがLLMで記事下書きを生成する。
対応:トーン/ターゲット選択のプリセット、生成後のサンプルレビュー基準、著作権チェックのワークフロー(HITL)をデザインシステムに組み込む。 -
顧客対応(カスタマーサポート)での自動応答設計
シーン:FAQを超えた自然言語対応を行うチャットサポート。
対応:応答用プロンプトの安全モード、エスカレーション閾値、サマリ出力(要点+行動案)といったコンポーネントを定義する。 -
プロダクトのプロトタイプ生成フロー
シーン:アイデア→テキストでUI案を出し、LLM→ワイヤーフレーム化→Figmaへエクスポートするワークフロー。
対応:ユーザーが与えるインプット例(成功例/失敗例)とバリデーションルールをテンプレ化して、品質のばらつきを抑える。Sony の事例が示すように、ワイヤー生成にLLMを使う場面がある。
導入上の注意点(実務のチェックリスト)
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期待値管理:LLMは確率的な出力をするため、何が「正しい応答」かを明確に定義する。Prompting Guide
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コストと遅延:モデル選定によりレスポンス時間・費用が変わるため、UX(待ち時間)要件とバランスを取る。OpenAI Help Center
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評価データの継続的運用:ユーザーの実利用ログから問題ケースを拾いテンプレートを改善する体制を作る。Prompting Guide
参考文献・参照(抜粋)
- OpenAI — Best practices for prompt engineering(運用/プロンプト指針)。OpenAI Help Center
- GitHub — A developer’s guide to prompt engineering and LLMs(開発者向けガイド)。The GitHub Blog
- LanguageGUI(LLMの出力をリッチUIにするオープンソース事例)。Creati.ai
- 設計システム×AIに関する議論記事(Design Systems Collective 等)。デザインシステムコレクティブ+1
- Sony — Using LLMs to generate UX Wireframes(ワイヤーフレーム生成の事例)。Sony Interactive Entertainment