人々が 名目上の金額(数字としての通貨単位)に注目し、実質的な購買力(インフレや物価変動を考慮した価値)を正しく評価できない傾向を指す概念である。
給料が「5%上がった」と聞くと喜ぶが、同時にインフレ率が「10%」であれば、実質的には購買力が下がっている。しかし多くの人はその事実に気づきにくい。
提唱者
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経済学者 アーヴィング・フィッシャー(Irving Fisher, 1867–1947)
彼は1928年の著書 “The Money Illusion(マネーイリュージョン)“ においてこの用語を定義した。
デザイン上に関わる利用方法と事例
貨幣錯覚は「ユーザーが数値をそのまま解釈し、実質的価値を見落とす」傾向である。デザインやUXにおいては 価格表示やインセンティブ設計に影響を与えるため、ナッジでの利用をしていく必要がある。
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名目の値引き・割引を強調
「10%オフ」「500円引き」といった名目値の提示は、実際の購買力や相対価値よりも強く受け止められる。 -
ポイントやマイルの付与
実質的な還元率は低くても「1,000ポイント進呈」と数値で表現されると価値が大きく見える。 -
給与や報酬の見せ方
インフレ調整後の実質給与ではなく「年収が100万円アップ」と提示されると、人は魅力的に感じやすい。
具体的事例
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サブスクリプションサービス
「月額980円」と表示すると安く見えるが、年額換算すると実は高いケースがある。ユーザーは名目額に目を奪われやすい。 -
ゲーム内通貨
課金で「1,000コイン」など大量に見える数字を提示することで、実際の金銭価値以上の魅力を与える。
プロダクト・コンテンツデザインで「この場面に使える」
- 価格戦略:「割引表示」や「ボーナス付与」の訴求を強めたいとき。
- 報酬設計:「名目額」を大きく見せ、満足感を高めたいとき。
- 教育・啓蒙:逆に、ユーザーに「実質的な価値」を正しく伝えるデザインが求められるとき(例:投資アプリや家計簿アプリ)。