OKRは、組織のミッションを達成するために「目標」(Objectives)だけでなく、達成した「主要な結果」(KeyResults)を定義し、成果を出すことにフォーカスしたフレームワークである。
半導体業界のパイオニアと呼ばれたAndy Groveが、インテル社のために考案した。
後に当時アンディの部下だったベンチャーキャピタリストのJohn DoerrがGoogleに教え、シリコンバレーのユニコーン企業(※)に使われることで広まった。
※:評価額が10億ドル以上、設立10年以内の非上場のベンチャー企業
主要な結果が組織の目標達成に向かわせる
あるピザのデリバリー企業の目標(Objectives)が、「どの競合他社よりも、ピザのデリバリーでお客様を喜ばせる企業となる」とする。
目標(Objectives)
どの競合他社よりも、ピザのデリバリーでお客様を喜ばせる企業となる |
目標である、「お客様を喜ばせる企業」では、何をすべきかが曖昧なため、達成基準である「主要な結果(KeyResults)」を用意する。主要な結果(KeyResults)を設定する注意点は、”結果は状態を表し、アクションや成果物ではない。”ということである。数も3〜4つに絞り、具体的で実現できることが明確なものにする。
「どの競合他社よりも、ピザのデリバリーでお客様を喜ばせる企業」の主要な結果(KeyResults)は、「NPSのスコアが42以上」、「注文の評価で、5段階中、4.6以上」、「競合製品よりも美味しいという回答が75%以上」と定義できるだろう。
主要な結果(Key Results)
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そして、組織目標の主要な結果(KeyResults)は、チームのOKRに繋げられる。例えば、ピザを注文するアプリケーションを開発するチームであれば、注文の評価が5段階中、4.6以上になることを目標(Objectives)に定めて、「メニュー画面の表示速度を30%早める」、「対応するキャッシュレス決済を2つ増やす」、「ピザの生地や具のカスタマイズ機能の利用率を20%増やす」など、主要な結果(KeyResults)として定義できる。チームの目標達成のために、個人のOKRを設定しても良い。
チームや個人の目標と組織目標に繋がりがあれば、組織全体で目標達成を目指すことができる。ハーバードビジネスレビュー誌によると、従業員と会社の目標に繋がりのある企業は、そうでない企業より、業界上位になる可能性が2倍高いという。
不確実性が高い時代に適応した目標設定
不確実性が高い中で、サービスやプロダクトを成功させるためには、従業員全体が同じ方向性を理解し、個々のチームが素早く問題に対応しながら目標に向かわなければならない。
Googleは創業当初から「世界中の情報を整理し、人々がアクセスできるようにする」という明確な方向性があった。ただし、ソリューションは今までにないものだったため、提供しながら細かく改善を繰り返す必要がある。役員がチームそれぞれに具体的な指示を出していては遅すぎるため、チームの判断で正しい方向に進むようにOKRを採用した。
Googleは自由な風土と責任を持ち、成果は達成すべき結果で評価する企業文化のため、OKRととても相性がよかった。
目標を達成できる仕組み
不確実な中で、失敗しながらも着実に目標に近づいていくには、根気もモチベーションの持続も必要である。しかし、OKRは、目標達成を後押しする仕組みが多く組み込まれている。以下、目標達成するための5つの仕組みを説明する。
1. 最重要事項にフォーカスする
目標(Objectives)はひとつ、主要な結果(KeyResults)を3〜4つに設定することで、目標達成にフォーカスできる。
企業は、顧客のクレーム対応や社内インフラの改善など、やるべき課題が多いため、目標をたくさん設定してしまいがちである。多くの目標のすべてを少しずつ進めるのでは、達成するまでに時間がかかる。ビジネス環境の変化は著しく、目標を達成した頃には効果がなく、無駄になるリスクがある。
注文画面の速度を改善して、注文の評価がどれだけ高まるかは、速度を改善してみなければわからない。効果が薄ければ、他の策を試すなど意思決定ができる。最重要事項に絞って成果を出すことで、次の期間で主要な結果(KeyResults)に何を設定すべきか判断し、目標(Objectives)へ着実に近づくためにアプローチを変えていける。
2. 透明性でチーム間の連携を作る
大きな目標達成には、チーム間の連携が不可欠である。チーム間の連携を作るために、各チームや個人が、お互いのOKRを見れるようにする。お互いのチーム目標がわかれば、コラボレーションが生まれる。
注文アプリの開発チームは、「ピザのカスタマイズ機能の利用率を20%増やす」を達成するのに、UIや機能改善だけでは実現が難しいと考えた。他の部署のOKRを検索・閲覧できれば、ピザのカスタマイズに関するOKRを立てている部署と協力できる。商品企画チームが「チーズと生地をカスタマイズで指定できるようにする」ことを主要な結果(KeyResults)としていれば、2チームで協力して目標達成に向える。
OKRの検索・閲覧には、Webアプリケーションを活用すると、キーワード検索など自分たちとコラボできるチームが探せるため便利である。
3. 進捗を可視化する
主要な結果(KeyResults)は、具体的で実現されたことが明確なものになる。定量的に設定できれば、あとどれくらいで達成できるかわかる。「競合製品よりも美味しいという回答が75%以上」の目標に対して、現在が50%であれば、あと25%上昇できれば良いとわかる。
「モチベーション3.0」の著者であるダニエル・ピンクは、「最強のモチベーターは、『仕事がうまくいくこと』だ」としている。目標達成に向かって進んでいることがわかれば、ゴールまでの距離が近づくほどやる気がでる目標勾配効果が働く。
また、進捗に透明性があれば、他チームから見られる意識で、ポジティブにプレッシャーがかかり、生産性が高まるピア効果も働く。
4. 高い目標がイノベーションを生む
組織のOKRを達成するには、チームとしても高い目標が必要になる。目標が高ければ、現状の制約を外して解決策を考えるようになる。
OKRは、70%の達成でも成功とされる。目標設定の権威であるエドウィン・ロック氏が行った実験によると、低い目標で達成度の高い人より、高い目標で達成度が低い人の方がパフォーマンスが高いことがわかった。また、高い目標はヒトをワクワクさせ、高揚させる効果もあることもわかった。
OKRは報酬と連動させないことも特徴である。目標達成度を報酬に反映させてしまうと、達成できないリスクを考え、チャレンジしなくなるからだ。
5. 完璧を目指さない
OKRは、達成難易度が高いだけでなく、適切な内容で設定することも難しい。OKRの設定内容に間違いがあっても修正できるように、目標期限は3〜6ヶ月と短い期間にする。内容が適さないとわかれば、期間内でOKRを変更しても良い。期限が終了したら、必ず振り返り、適切な目標に調整しながら進めていく。
MBOとの主な違い
OKRの前から、MBO(Management By Objectives)という有名な目標管理が存在した。しかし、MBOは人事評価を目的に利用され、個人の成果が客観的に評価できるように、アクションしたか、成果物を出したかどうかで達成度を測る。アクションや成果物では、組織の目標との繋がりがなく、目標達成しづらかった。
オンライン契約書のSaaS企業の目標を例に違いを説明する。目標は、前年度比売上150%である。
MBOでは、開発部は顧客を獲得するために、新機能を10個実装することを目標にする。開発部の目標を達成するために、個人の目標は、ダッシュボード機能をリリースする、などの目標となる。しかし、ダッシュボード機能をリリースしても、顧客が増えなければ、組織目標である売上増加につながらない。
OKRでは、売上150%に対する主要な結果(KeyResults)の1つとして、「ユーザーの30%が、プレミアムプランにアップグレードする」ことを設定する。それを受けて、開発部では目標(Objectives)を「10社の顧客が、追加費用を払ってでも使いたい機能があると感じる」こととする。
この目標の主要な結果(KeyResults)は、「新機能で顧客の業務コストを20%削減させる」ことや、「新機能で顧客の契約を5%増やす」となる。新機能でコスト削減や契約の取れた実績のある状態なら、追加費用を払いたい顧客は増え、プレミアムプランにアップグレードする顧客が増えることにつながる。
MBO | OKR | |
---|---|---|
利用目的 | 人事制度に利用 | 組織目標の達成に利用 |
目標達成の評価 | 個人に対して、アクションや成果物で評価する | 主要な結果(KeyResults)が実現されたかどうかで評価する |
組織目標 | 前年度比売上150% | O:前年度比売上150%
KR:ユーザーの30%が、プレミアムプランにアップグレードする |
チーム目標 | 新機能を10個実装する | KR:10社の顧客が、追加費用を払ってでも使いたい機能があると感じる |
個人目標 | ダッシュボード機能をリリースする | KR:新機能で顧客の業務コストを20%削減させる |
OKRは価値を伝える努力も必要
どんなに良い目標でも、紙に張り出しただけでは従業員にやる気は芽生えない。リーダーが熱心になぜやる必要があるのか、何をやるのかなど、OKRの価値を伝えていくことが必要である。
企業によっては、OKRの有用性を時間をかけて深く理解するために、合宿を行うケースもある。OKRが何かを学ぶだけではなく、チーム内で体得することはとても重要とされている。
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関連用語
- 目標勾配効果
- CFR(Conversation,Feedback,Recognition)
参考文献
- ジョン・ドーア(2018) 「Measure What Matters 伝説のベンチャー投資家がGoogleに教えた成功手法 OKR」土方奈美訳, 日本経済新聞出版社