本来は哲学の用語であり、「存在とは何か」「この世界に何があるか」を体系的に分類・整理する学問領域。
情報科学やデザインの分野では、この考え方を応用し、特定の領域における「概念(ものごと)やその関係性」を明示的に定義・構造化した知識の枠組みとして情報設計(IA)の分野でよく用いられている。
起源と提唱者・伝播者
オントロジーの概念は、もともと古代ギリシャの哲学者パルメニデスやアリストテレスなどに遡る。
近代以降はライプニッツやハイデガーも議論しているが、現代の情報科学におけるオントロジーは、トーマス・グルーバー(Thomas R. Gruber)が1993年に定義した次の言葉が有名である:
“An ontology is an explicit specification of a conceptualization.”
「オントロジーとは、概念化の明示的な仕様である。」
分類方法の例
動物園のマップを作る際
- ライオン → どうぶつ → 肉をたべる
- ペンギン → どうぶつ → 水の中で泳ぐ
- パンダ → どうぶつ → 笹をたべる
上記の様に、いろいろな「どうぶつ」と「食べもの」や「すみか」の関係をはっきりさせること
デザインにどう活かせるのか?
たとえば「図書館のアプリ」を設計する際に、以下のような関係性をあらかじめ明確にしておく。
- 本:借りることができ、内容を読む対象
- 利用者:本を借りたり返却する行為の主体
- 図書カード:利用者情報が記録されている媒体
このように、「どんなモノが存在し、どのように関係し合っているか(オントロジー)」を整理することで、アプリ全体の構造が明確になり、設計や実装、そしてユーザーへの提供価値が一貫したものになる。
なぜ重要なのか?
オントロジーを定義しておくことで、プロダクトデザイナーや開発者が「何がどこにあるか」「どの要素がどう関係しているか」を認識しやすくなる。
その結果、
- ユーザーにとっては混乱の少ない、直感的に理解しやすいインターフェースになる
- 開発側にとっては要件のズレや設計ミスを減らし、一貫性のあるデザインが維持される
つまり、ユーザーにも制作チームにも優しい構造が実現されるのである。
たとえるなら?
オントロジーは、情報を体系的に整理する「分類の設計ルール」のようなもの。
たとえば、子どものおもちゃを分類して収納する場面を考えると──
- ぬいぐるみは「柔らかいもの」
- プラモデルは「壊れやすい精密なもの」
- カードゲームは「薄くてかさばるもの」
というようにカテゴリ分けし、それぞれ適切な箱に収納することで、管理がしやすくなる。
情報設計におけるオントロジーもそれと同様に、「分類の基準」と「意味のつながり」を定義することで、デザイン全体に秩序と理解のしやすさをもたらすのである。
デザインにおけるオントロジーの利用方法
デザイン領域において、オントロジーは次のように活用される。
1. 情報設計(IA:Information Architecture)における概念整理
ウェブサイトやアプリケーションにおいて、ユーザーが必要とする情報や機能を整理する際、オントロジーに基づいた分類を使うことで、一貫性のあるナビゲーションやラベル設計が可能となる。
2. 音声アシスタントやチャットボットの設計
たとえば「レストラン」というカテゴリの中で、「予約」「営業時間」「場所」といった属性を整理しておくことで、ボットがより文脈を理解しやすくなる。
3. プロダクト開発におけるドメインモデル設計
たとえば病院向けアプリを作る際、「患者」「医師」「診察」「薬」などの用語とその関係を定義したオントロジーを作成することで、開発チーム間の共通理解を得やすくなる。
この場面に使える:実例
シーン:
自治体の市民サービスサイトをリニューアルするプロジェクト
オントロジーの適用:
- 「住民票」「印鑑登録」「転入届」などの手続き情報がバラバラになっていた。
- オントロジーを使って、「ライフイベント(引っ越し・結婚・出産)」と「必要な手続き」「必要書類」などの関係を整理。
- 結果:ユーザーが「状況に応じて必要な手続きをまとめて探せる」UXが実現された。