新たに安全対策を施すと、人はリスクのある行動を取る。万全であるという誤認(認知バイアス)から無意識的にリスクをある行動を起こすと考えられ、様々な分野で、その存在が確認されている。
ペルツマン効果の提唱者
経済学者のサム・ペルツマン(Sam Peltzman)が1975年に公表した研究によって初めて詳細に解明された。
安全対策によって安全性の向上がもたらされるはずが、人のリスク行動の増加によって相殺された。彼はこの現象を「ペルツマン(Peltzman)効果」と名付け、安全対策が導入された際に、その効果が現れることを指摘した。
サム・ペルツマン
認知バイアスとリスク認識
認知バイアスとは、人間の判断や意思決定が、客観的な事実や理性に基づくものではなく、無意識的な思考や感情によって歪められることを指す。
安全対策によってリスクが低下したという歪んだ認識により、人は無意識的に以前よりもリスクを取る行動を増やすようになる。このようにリスク認識が歪められることで、ペルツマン効果が生じるとされている。
自動ブレーキが付いている車の運転手は、付いていない車よりスマホを触る・よそ見をするなどの行動をすることが当てはまる。
ペルツマン効果の影響
様々な分野でのペルツマン効果
自動車安全対策の導入に限らず、様々な分野でその存在が確認されている。
例えば、速さや高さ、危険さや華麗さなどの「過激な (extreme)」要素を持った、離れ業を売りとするエクストリームスポーツや、健康に関する行動、金融投資などでも、安全対策やリスク管理が行われることで、逆にリスク行動が増加することが報告されている。
企業の安全対策
企業においても、ペルツマン効果は重要な問題となる可能性がある。
例えば、セキュリティを強化したので、従業員が企業のパソコンで危険なサイトに行ってしまうなどである。
安全対策によってリスクが低下したと感じることで、より無謀な行動を行うようになり、結果として事故が増加することが懸念される。
このため、企業は安全対策の導入に際して、ペルツマン効果を考慮した対策を行う必要がある。
ペルツマン効果への対策
リスク認識の改善
ペルツマン効果を防ぐためには、まずリスク認識の改善が必要である。
安全対策が導入されたことでリスクが低下したという認識を持つことが、リスク行動の増加につながるため、リスク認識を適切に保つことが重要である。
これには、安全対策の導入によってリスクが完全にゼロになるわけではないことを意識し、適切なリスク管理を行うことが求められる。
安全文化の醸成とフィードバック・評価
ペルツマン効果を防ぐためには、組織全体で安全文化を醸成することも重要だ。
組織のリーダーやマネージャーが安全意識を高め、従業員に対しても安全意識の向上を促すことで、安全対策の効果が相殺されることを防ぐことができる。
また、安全対策の効果を最大限に発揮させるためには、フィードバックと評価が欠かせない。
従業員が実施した安全対策の効果を定期的に評価し、その結果をフィードバックすることで、従業員のリスク認識や安全意識を向上させることができる。
関連用語
- モラル信任効果