楽しい時間は早く過ぎ,つらい時間は長く感じるのはなぜか?
時間には、量的時間(ニュートン時間)と質的時間(ベルクソン時間)のふたつがあり、前者は時計の針ではかることができる客観的な時間、後者は質的時間はひとりひとりの主観的なものである。この質的時間について鋭い洞察を与えたのがフランスの哲学者ベルクソンであり、自著の「時間と自由」では、厳格な二元論とともにそれぞれを考察している。
ベルクソンによれば「流れた時間」と「流れる時間」は区別され、前者は量的な時間、後者は質的な時間である。ベルクソンにとって本当の時間は「自らが流すもの」であり、質的な意識と意識が繋がって初めて「流れる」。楽しい時間が早く過ぎることや、意識が遠のくと時間が止まることはこれによって説明できるし、歳を取り、量的時間よりも質的時間が少なくなると、1年が短く感じることもなんとなく頷ける。
ユーザ体験を質的時間の視点でとらえるには?
ユーザ体験を考える上で「時間」は中心となる概念であり、ここでの「時間」は量的時間というよりは質的時間である。所用時間が何秒であったか?といったことよりも、どのような種類の時間が流れたのかが重要である。
ベルクソンは、この質的時間をときおり、音楽の三要素である「リズム,メロディ,ハーモニー」と対応づけながら巧みに解説している。しかし、ベルクソンによる解説は抽象度が高く難解なため、デザインをとらえるレンズとして解釈しなおし、説明を加えたのが以下の通りである。
(1)リズム(点)
リズムとはユーザにとって意識を喚起させるものであり、すなわちコンテンツであり、質が重要である。量質転化という言葉もあるが、質とは「違うこと」そのものである。以下のような点が質的時間を増やすには必要である。
1) 分かりやすいコンテンツ
2) 関心の持てるコンテンツ
3) 五感を楽しませるコンテンツ
(2)メロディ(線)
メロディとはリズムの関係性のことである.ベルクソンによれば,意識と意識が関係することではじめて時間が流れるとし、言い換えればストーリーである。期待に沿ったものを提供するだけでなく,常に変化したり期待を裏切ることも質的時間を増やすには必要である。
1) 期待に沿ったストーリー
2) 常に変化するストーリー
3) 期待を裏切るストーリー
(3)ハーモニー(場)
ハーモニーとは時間が展開される空間のことである.つまり,全体の空間やイメージ、コミュニティのことである.以下のような点が質的時間を増やすには必要である。
1) 自由度の高い場づくり
2) 一体感を感じる場づくり
3) 公平で秩序が保たれた場づくり