RITE(Rapid Iterative Testing and Evaluation)は、「迅速な反復テストと評価」を意味し、ユーザビリティテストと製品改善を素早く繰り返すプロセスである。従来のユーザビリティテストと異なり、RITEでは問題が特定されるとすぐに修正を行い、次のテスト参加者には改善されたバージョンを提示する。
UXデザインの世界では、ユーザビリティテストは製品開発プロセスの重要な部分である。その中でもRITE(Rapid Iterative Testing and Evaluation)メソッドは、特に効率的かつ効果的なアプローチとして知られている。

RITEメソッドの図
RITEメソッドの起源
引用:https://www.linkedin.com/in/mmedlock/
RITEメソッドは2000年代初頭、マイクロソフト社のユーザビリティエンジニアであるマイケル・メドロック、デニス・ウィクソン、ビル・フルトンらによって開発された。彼らは当初、ゲーム開発プロセスを改善するためにこの方法を考案した。
2002年に発表された彼らの論文「The Rapid Iterative Test and Evaluation Method: Better Products in Less Time」では、従来のユーザビリティテスト手法の限界を克服する新しいアプローチとしてRITEが紹介された。マイクロソフトのゲーム部門で実践されたこの手法は、特に「Age of Empires II」などのゲーム開発において大きな成功を収めた。
RITEメソッドの特徴
従来のユーザビリティテストと多くの共通点を有する。
テスターおよびチームは、テストの対象となる集団を定義し、参加者のラボ来場スケジュールを調整し、ユーザーの行動を測定する方法を定め、テストスクリプトを作成した上で、参加者に思考発話法などの口頭プロトコルに従ってもらう必要がある。
しかしながら、この手法は、問題が特定され解決策が明らかになり次第、即座にユーザーインターフェースに修正を加えることを推奨している点において、従来の手法とは一線を画す。場合によっては、たった1人の参加者を観察した段階で、修正が実施されることもある。
参加者のデータが収集され次第、ユーザビリティエンジニアとチームは、次の参加者のテスト前にプロトタイプの修正を行うべきかどうかを判断する。その後、修正されたインターフェースは、残りの参加者によって再び評価される。
RITE法の根底にある哲学
RITE法の根底にある哲学は、「1)問題を発見したら可能な限り早く修正すること、2)意思決定者を研究チームの一員とすること」にある。
このように、RITE法は厳密な研究手法と実践的な設計手法との橋渡しを果たすものであり、参加型デザインの手法の一形態として位置づけられる。正式に定義され、命名されて以来、本手法は他の多くのソフトウェア業界においても急速に普及している。
RITE法のやり方
- 迅速な反復: 問題が見つかったら即座に修正し、次のテストに反映
- 少人数でのテスト: 各イテレーションで3〜5人程度の少人数でテスト
- チーム全体の参加: デザイナー、開発者、プロダクトマネージャーなど多職種が観察に参加
- 即時の意思決定: 問題の特定と解決策の実装を迅速に行う
- 継続的な改善: 数日〜数週間の短期間で複数回の反復を行う
従来のユーザビリティテストとの違い
従来のユーザビリティテスト | RITEメソッド |
---|---|
多数の参加者でテスト実施 | 少人数ずつ段階的にテスト |
すべてのデータを収集後に分析 | 問題発見後すぐに修正 |
一度の大きな改善サイクル | 複数の小さな改善サイクル |
結果レポートの作成に時間がかかる | 即時のフィードバックと改善 |
開発後期に実施されることが多い | 開発の早い段階から実施可能 |
RITEメソッドの実践ステップ(参考例)
- 計画: テスト目標の設定、タスクの設計、参加者の募集
- テスト実施: 少人数(通常3〜5人)の参加者でテスト
- 問題特定: チーム全体で観察し、重要な問題点を特定
- 即時修正: 特定された問題に対する解決策を即座に実装
- 再テスト: 修正されたバージョンで次の参加者グループをテスト
- 繰り返し: 満足のいく結果が得られるまで3〜5のステップを繰り返す
UXデザイナーにとってのメリット
- 迅速なフィードバック: デザインの問題点をすぐに把握できる
- 効率的なリソース活用: 少人数のテストで効果的な改善が可能
- チーム間のコラボレーション促進: 多職種が参加することでコミュニケーションが活性化
- ユーザー中心設計の強化: 実際のユーザーフィードバックに基づく改善
- 開発スピードの向上: 問題の早期発見・修正により開発サイクルが短縮
実践のためのヒント
- 明確な目標設定: テストで何を検証したいのかを明確にする
- 適切なタスク設計: ユーザーの実際の行動を反映したタスクを設計
- チーム全体の巻き込み: 開発者やステークホルダーもテスト観察に参加させる
- 優先順位付け: すべての問題を一度に解決しようとせず、重要度で優先順位をつける
- 柔軟性の維持: テスト計画を厳格に守るよりも、発見された問題に応じて柔軟に対応
まとめ
RITEメソッドは、迅速な反復と即時の改善により、ユーザーにとって本当に価値のある製品を効率的に開発することができる。
マイクロソフトのゲーム開発から生まれたこの手法は、現在ではさまざまな業界のデジタルプロダクト開発に広く活用されている。
UXデザインの世界では「早く失敗し、早く学ぶ」という考え方が重要であるが、RITEメソッドはまさにこの哲学を体現した手法と言える。
次回のプロジェクトでぜひRITEメソッドを取り入れてみることをお勧めする。