認知バイアスを生む意思決定プロセス
心理学におけるヒューリスティックとは、人が問題解決などにおいて迅速かつ効率的に判断を下す際に、無意識に使っている手がかりや法則のこと。これらは、ほとんどの場合、経験に基づいているため「ヒューリスティック=経験則」と同義に扱われる。
意思決定にかかる時間を短縮し、常に次の指針を考えずに行動することを可能にするショートカット的な役割を持つ。しかし、確実な正確性を保証するものではなく、人によって判断結果に一定の偏りを含むことが多い。そのような認識上の偏りのことを「認知バイアス」と呼ぶ。
代表性ヒューリスティックとは、ヒューリスティックの種類のひとつ。人々が、特定カテゴリーの中で代表的、典型的であると思われる事項の確率を過大評価しやすい意思決定プロセスのことを指す。
「リンダ問題」から考えるヒューリスティックの問題
代表性ヒューリスティックと一緒に紹介される有名な例として、Amos TverskyとDaniel Kahnemanが考案した「リンダ問題」がある。
【問題】
「リンダは31歳、独身で、非常に聡明で、はっきりものをいう。大学では哲学を専攻し、学生時代は人種差別や社会正義の問題に関心を持ち、反核デモに参加していた。」今のリンダを推測してください。
A:リンダは銀行窓口係である。
B:リンダは銀行窓口係で、女性解放運動もしている。
大多数の人はリンダを判断する際に、”代表性ヒューリスティック”を用いて「B」を選ぶ。なぜなら、記載されている文章がリンダの特徴であるフェミニストの典型的なものと類似するため、リンダは「B」である(可能性が高い)と決定を下してしまうのだ。
しかし、合理的な考えのもと数学的に捉えると「AとBのどちらの確率が高いか?」と置き換えると、「B」は「A」の部分集合となるため「A」になる確率のほうが高くなる。
落書きの犯人を推測する問題
より理解を深めるために日本的な例を上げておく。
朝、登校したら校舎の壁面にスプレーによる大きな落書きがされていた。犯人である可能性が高いのは、どちらか。
A:高校生
B:不良の男子高校生
上記の落書きの犯人を推測する問題においても、リンダ問題と同じ結果が見られるだろう。「校舎に落書きをする」という事象が、不良の典型例として想起できるためである。
このような現象のことを、合接の誤謬(conjunction fallacy)もしくは連言錯誤ともいう。人は、時として、その経験則から誤った推論を生み出すことがある。
実践ではヒューリスティックを考慮する必要がある
実践で問題発見をする際には仮設をたてて特定する必要が出てくるが、「リンダ問題」のように予め意思決定プロセスに偏りが生じることを認知し、調査や設計・テストなどあらゆる段階においてそれを意識する必要がある。
ユーザーとなる対象者は元より、制作側の人間でさえ、合接の誤謬を犯している可能性があることも忘れてはならない。