ユーザーに近い視点で、製品やサービスの利用体験を確認する手法をロールプレイングという。ユーザーの立場で行動することで、利用する際の心理や置かれた状況を理解しやすくなる。
役割演技法やアクティングアウトと呼ばれる場合もある。
ロールプレイングの中でもアイデア出しに特化したものはボディストーミングという。

シンガポール大学で行われたワークショップでのロールプレイングの様子
引用:Role Playing
コンテキストを含めて動線を確認し、ユーザー心理を体験できる
ユーザー視点から使いやすい製品・サービスを作るには、ユーザーの置かれたコンテキストを踏まえ、利用中の心情に配慮することが大切である。ユーザーの利用体験を実際にやってみることで、利用時の心情が理解しやすくなる。
ユーザーだけでなく、周囲の人物も含めてロールプレイングすると、コンテキストや心情をさまざまな立場から確認できる。
コンビニで決済アプリのロールプレイ
例えば、“コンビニで決済アプリの利用する”ロールプレイングで、「ユーザーはレジ前でアプリの起動が遅いと焦る」といった心理に気づける。
店員の立場となった人は「ユーザーが見せてくれる画面が遠いので文字が小さくて瞬時に読めない」「レジ打ちミスがあったがどうしたら良いのだろう」といった店員ならではの視点で、課題に気づきやすくなる。
レジの人にも見やすいUIに改修
ローンチ当初のPayPayは、ユーザーから見た方向の画面しか無かったが、後にレジ側からも支払い金額が見やすいUIに変更された。こういった視点は、ロールプレイでテストをすると気づきやすくなる。
ロールプレイングの実施方法
ロールプレイングは、一般的に以下の4ステップで行われる。
- 役割を決める
- 寸劇を行う
- 気づきを共有する
1. 役割を決める
演者、記録者、オーディエンスの3つの役割を割り振る。
- 演者:ユーザーや店員として、サービスの利用シーンを再現する
- 記録者:写真や動画の撮影、メモを行う
- オーディエンス:寸劇にリアクションしたり、終わった後に感想を言う
演者が決まったら、「どういう人物なのか」「今どういう状況なのか」といった行動の前提や目的、達成したいことを共有する。
「スーパーで、決済アプリを使って商品の支払いをしてください。この後保育園に子供を迎えに行かないといけないため、5分以内に店を出ることが目標です。」
2. 寸劇を行う
小道具や環境を事前に準備し、「演技を批判しない」といったルールを用意しておくとスムーズに寸劇を行うことができる。
3. 気づきを共有する
演者やオーディエンスは、演者が寸劇をしている途中や終わった後に、感じたことを共有する。記録者はこの時も、会話の記録を続けておくと良い。
「ロールプレイングを通じて何を発見できたか」を論点として話すと、得られた学びをアイデアの検証やサービスの改善に活かしやすくなる。
ロールプレイングの事例
サービスデザインでロールプレイングが実践された事例を紹介する。
発泡スチロールで実寸大の薬局を作って検証したIDEO
デザインコンサルタント会社「IDEO」は、薬局チェーン「ウォルグリーン」との共同プロジェクトで、“心と身体の健康に確かなアドバイスやサポートが得られる店”を提案した。コンセプトに乗り、アドバイスが気軽にできる身近な存在になるように、薬剤師が売り場の前面に立つ設計にした。
ビルのエントランスに実寸大の店舗のプロトタイプを作成し、顧客にとって実際に身近に感じられるかをロールプレイングで検証した。実際の店舗でも、薬剤師に相談する回数が4倍となり“薬剤師を身近な存在にする”というコンセプトを実現した。

発泡スチロールで作られたウォルグリーンの店舗アイデア
引用:Bringing Back the Neighborhood Pharmacy | ideo.com
注文から30秒での商品提供できるマクドナルドはロールプレイをしていた
世界的有名なファストフードチェーン「マクドナルド」の創始者は、商品を注文から30秒で顧客に提供したいと考え、より効率的な厨房レイアウトを設計するためにロールプレイングを取り入れた。映画「ファウンダー」によると、テニスコートにチョークで新しい厨房レイアウトを描いて、従業員に調理をロールプレイを行った。
厨房にある全ての機器を実寸大で描き、従業員それぞれの担当箇所に配置して調理工程を演じてもらい、途中でスムーズにいかない箇所が見つかると、調理プロセスの調整や厨房レイアウトを描き直した。
8時間の実験と3回のレイアウトの変更で、最も効率的な厨房を作ることに成功した。ロールプレイングで検証した設計の厨房によって、実際に注文から30秒での商品提供を実現した。
プロジェクトのどのタイミングでも実施できる
ロールプレイングは、ユーザーに近い視点でサービス・製品を確認して気づきを得る手法であるため、プロジェクトのどのタイミングでも実施できる。
実施の際は、何のために実施するのか目的を定めておくと良い。
ロールプレイング実施目的の例
- アイデアの探索・生成
- 実演することでアイデア出しをすることに特化した関連手法に「ボディストーミング」がある
- アイデアの検証
- プロトタイプの評価
- サービスの課題発見