プロトタイプを作成する際に開発作業を省くことで、制作時間とコストを削減し、早期検証できる手法である。
ユーザーテストを行うためにはプロトタイプが必要不可欠だが、プロトタイプをシステム開発によって実現すると、時間とコストがかかってしまう。開発に”バグ”は付き物であり、簡単なプロトタイプでもエラーなく動作するには相当な労力が必要となる。そこで、ユーザーには特に機能をもたない「お飾り」の画面のみ提示する。
それだけではユーザーがクリックやタップをしても何も起こらないが、代わりにテスト空間の外から「魔法使い」(設計者)が次に何が起こるかを判断し、ユーザーの画面をまるで「カーテンの影から操作」するかのように操り、ユーザーにはまるでシステムが動いてるように感じられる。
下の図では、完璧に動作する音声入力システムの体験検証として、被験者が話している内容をカーテンの後ろから、タイピスト(魔法使い)が聞き取って高速で入力し、入力結果を被験者に表示している様子を表している。被験者には自分が話した内容が完璧に画面に再現される音声入力システムを操作しているかのように感じられる。
人間工学やHCIを研究していた研究者Jeff Kelley氏が提唱した。
児童文学小説『オズの魔法使い』ではクライマックスシーンで、恐ろしい姿をした大魔法使いオズが現れる。人々はその姿に恐れおののきひれ伏したが、実際はカーテンの影から貧相な老人が装置を操っていただけだったことに由来する。
時間とコストをかけずにテストが可能
システム開発を行わない分、時間・コスト削減が期待でき、検証サイクルを早く回せるのが特徴だ。
一方、システムの動作全てをシュミレーションできるわけではないため、事前に「なにを検証したいのか」を明確にして「オズの魔法使い」で対応できるのかを確かめる必要がある。
オズの魔法使いに適しているテストのケースとそうでないケースがある。
オズの魔法使いが適しているケース
サービスの価値検証
サービスに対して魅力・価値を感じるユーザーがいるかどうかという、価値を検証するフェーズに適している。
初期のユーザビリティテスト
最低限のユーザビリティテストとして素早く始めるために利用できる。システム開発前にレイアウトや導線設計のエラーを発見できるため、改善イテレーションをより多く回すことができる。
オズの魔法使いが適していないケース
すでに開発・運用しているサービス
サービスの開発が始まった後や、すでに動いているサービスの問題分析には向いていない。実際のプロダクトにどのような問題があるのか探った方が有用である。
サービスの価値検証での活用事例: DoorDash
DoorDashは、2013年に当時スタンフォード大の生徒だった4人が作った「スマホやパソコンから簡単にレストランのデリバリーを頼める」サービスである。
たった4年で加盟店は全米300店以上に広がり、フォーブスの「次世代の10億ドル規模のスタートアップ企業」にも選ばれており、シェアリングエコノミーとしても注目されている。
DoorDashのプロトタイプ制作時間はわずか1時間だった。「レストランのデリバリーサービスに十分な需要があるのか」を検証するため、メンバーの携帯電話番号と周辺レストランのPDFメニューのみを記載したランディングページのみ制作し、デリバリーのドライバーも裏で動くシステムもなく、ローンチした。
実際に電話がかかってきたら、彼らは自らレストランに足を運び、注文されたメニューをテイクアウトしてユーザーに届けたのだ。
システム開発をせず、ランディングページという”お飾り”のみ制作し、あとは”カーテンの影から人が操作”するように人力で配達することで、アイディアにどれだけの需要があるのかを検証したのである。
UX DAYS TOKYO 2018でも紹介
アビ・ジョーンズ(Abi Jones)氏によるワークショップ、はじめてのボイスユーザーインターフェースでは、オズの魔法使いを利用した「人がVUI役を演じて応答し、会話設計の検証を行なう」というVUIのユーザビリティテストが紹介された。