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ヤーキズ=ドッドソンの法則

適度な緊張で能力が最も高まり、強すぎても弱すぎても下がるという法則

締め切り直前に集中力が一気に高まった経験は、多くの人が持っている。一方で、プレッシャーが大きすぎて頭が真っ白になり、いつもなら解ける問題でつまずいた経験もあるだろう。緊張やストレスは、少なすぎても多すぎてもパフォーマンスを下げてしまう。ヤーキズ=ドッドソンの法則とは、人の覚醒(緊張・ストレス)の水準とパフォーマンスのあいだに「ほどよい中間で最高になる」逆U字の関係があるとする心理学の法則である。

覚醒(横軸)とパフォーマンス(縦軸)の逆U字曲線(出典:Wikimedia Commons「HebbianYerkesDodson.svg」CC0 https://commons.wikimedia.org/wiki/File:HebbianYerkesDodson.svg)

 

近い概念に「フロー」がある。フローが「挑戦と能力が釣り合ったときの没入体験」という主観的な状態を表すのに対し、ヤーキズ=ドッドソンの法則はその土台にある覚醒とパフォーマンスの関係を説明する。両者は矛盾せず、補い合う見方として並べて使える。

語源・提唱者

ヤーキズ=ドッドソンの法則は、1908年にアメリカの心理学者 Robertロバート M.エム Yerkesヤーキズ と、その教え子 Johnジョン Dillinghamディリンガム Dodsonドッドソン が発表した。論文のタイトルは「The relation of strength of stimulus to rapidity of habit-formation(刺激の強さと習慣形成の速さの関係)」で、二人はこれを『Journal of Comparative Neurology and Psychology』誌の第18巻に発表した。

ロバート・M・ヤーキズ
ロバート・M・ヤーキズ(出典:https://en.wikipedia.org/wiki/Robert_Yerkes)

二人は「踊るネズミ(dancing mice)」と呼ばれる日本産のマウスを使い、学習の実験をおこなった。マウスに白い箱と黒い箱を選ばせ、白い箱に入ると軽い電気ショックを与える、という課題である。弱すぎるショックでは、マウスはなかなか正しい選択を覚えなかった。ショックを強めるほど学習は速まったが、最も強いレベルでは逆に学習がまた遅くなった。ここから二人は、刺激(緊張)には学習を最も速める「ちょうどよい強さ」がある、と結論づけた。

この発見は発表当初こそほとんど注目を集めず、その後半世紀のあいだの引用も十回ほどにとどまった。研究者たちが再び目を向けたのは1950年代である。Donaldドナルド O.オー Hebbヘッブ が「覚醒」の概念を整理したことをきっかけに、この法則は人間の緊張とパフォーマンスを説明する考え方として定着していった。

課題の難しさで最適点は動く

ヤーキズ=ドッドソンの法則のもう一つの要点は、最適な覚醒水準が「課題の難しさ」によって変わる点にある。単純で慣れた作業ほど、高めの緊張があったほうが速く正確にこなせる。一方、複雑で頭を使う作業では、緊張が高すぎるとかえって成績が落ち、低めの覚醒のほうが力を発揮しやすい。

なぜ逆U字を描くのか。研究者はこの曲線を、二つの逆向きの力の組み合わせとして説明する。上り坂の部分では、覚醒が人を活気づけ、集中とやる気を後押しする。下り坂の部分では、過剰な緊張が注意・記憶・問題解決といった認知のはたらきを乱す。視野が狭まる「トンネル視」や、頭が真っ白になる現象も、この下り坂で起きていると研究者は考えている。

具体的な作業に当てはめると、わかりやすい。データ入力のような単純作業は、多少の締め切りプレッシャーがあったほうがはかどる。これに対して、込み入った設計判断や難しい意思決定では、強いストレスが判断力を曇らせる。同じ「緊張」でも、課題の種類によって最適な量が違う、と覚えておくとよい。

適度なプレッシャーを設計するDuolingo

学習アプリ、フィットネス、習慣化サービスのように、ユーザーの没入や継続そのものが価値になるプロダクトでは、設計者があえて緊張感やプレッシャーをかけ、覚醒を最適点まで引き上げる。退屈やマンネリは最大の敵であり、刺激が低すぎるとユーザーは離れていく。逆U字の左側(覚醒が足りない側)から、ほどよい緊張で中央へ押し上げる発想である。

語学学習のDuolingoが、その代表例である。週次の「リーグ」では、同じ週に学んだ人どうしを実力の近い相手と組ませ、残り時間のカウントダウンを示しながらXPを競わせる。勝てそうな競争でありながら、下位に沈むと容赦なく降格するため、最終日に駆け込みで学習する人が後を絶たない。連続学習記録「ストリーク」も、伸ばすほど「ここで途切れさせたくない」という損失回避の不安を強め、ユーザーを毎日アプリへ引き戻す。Duolingoによれば、7日間ストリークを続けたユーザーは長期定着率が3.6倍に伸びる。こうした昇格・降格やカウントダウン、連続記録への執着が、ほどよいプレッシャーとなって学習者の覚醒を最適点へ押し上げる。

落ちた。|ちくわ【どんぐり】
学習を止めるとランキングが降格するシステム
(出典:https://note.com/heso/n/nd80a4d8a937a)

ただし、プレッシャーは強ければよいわけではない。ストリークやランキングが過剰になると、ユーザーは義務感や不安に駆られ、逆U字の右側へ振れて疲弊し、いずれ離れていく。設計者が狙うのは、あくまで「ほどよく追い込まれて夢中になる」最適点である。自分のプロダクトがユーザーを退屈から引き上げる側なのか、それとも過剰な負荷から守る側なのかを見極めたうえで、緊張を足すか引くかを決めると、この法則を実務で使いこなせる。

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BtoB人事業務アプリのコンサルタント→エンジニア→BtoCのWebディレクターを経て、再度BtoB業務アプリとなる物流プラットフォームのUIUXに挑戦。オンライン/オフライン双方でのBtoBUXを改善すべく奮闘中。

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