目標主導型設計(Goal-Directed Design)は、インタラクションデザインの設計手法で、ユーザー調査で取得したデータを元に、ユーザーのニーズや目的が達成できるようにプロダクトを設計する手法である。
Visual Basicの開発者であり、ペルソナの生みの親として有名なAlan Cooper氏らが生み出した。
アラン・クーパー氏:wikipediaより引用
目標主導型設計が目指すもの
従来のプロダクト開発では、多くのユーザーが興味・関心を持てるように膨大な機能を開発したり、技術的に困難という理由で機能や仕様をグレードダウンすることがしばしばあった。
フィーチャー・クリープ(機能が肥大化してしまうこと)が生じて、メンテナンスコストが高くなってしまったり、グレードダウンによってユーザーの利便性が低下してしまい、結果としてユーザーがプロダクトを利用しなくなってしまった。
目標主導型設計では、人間中心設計の観点からユーザーの目標(ゴール)に焦点を当てて、目標を達成できるようにプロダクトを開発することで、無用な機能の肥大化やユーザーの利便性低下を抑制できる。
6段階のプロセス
目標主導型設計は、6段階のプロセスで構成されている。
- 調査
- モデリング
- 要件定義
- フレームワーク定義
- 設計
- 開発

目標主導型設計におけるプロセス
目標主導型設計では、必要に応じて前工程に戻る。例えば、2番目のモデリングを行う際に不足情報があれば、前工程の調査段階に戻り、改めて市場ニーズを収集する。
1. 調査
インタビューやフィールドワークなど、エンドユーザーやステークホルダーを対象に調査を実施する。
2. モデリング
調査で得られた情報を元に、ペルソナを定義し、ユーザーのゴールを明確にする。
ペルソナ
ユーザーの行動パターンや目標からペルソナを作成する。ユーザーによって行動パターンや目標が異なる場合は、複数のペルソナを作成する。
ワークフロー
ペルソナが目標を達成するために、何をどのような順番で行うのか定義する。
モデリングの結果、複数の目標が出来上がった場合には、優先順位を付ける必要がある。多くのペルソナに共通する目標や、他の目標に対して影響度が高いものから順番に優先順位を付ける。
3. 要件定義
定義したペルソナがワークフローを達成するためのシナリオを作成する。
シナリオ作成の際は単純な手順ではなく、ユーザーの置かれている状況や環境(コンテキスト)を考慮して、ペルソナが何を考え、どのように行動するかを吟味する必要がある。
ユーザーの目標が達成できることだけでなく、「ブランドイメージの向上」といったビジネスゴールの達成や、「オフラインでも利用できる」といった技術的制約も考慮しなければならない。全ての要素をバランス良く満たす設計が必要だ。
4. フレームワーク定義
要件定義で作成したシナリオを元に、プロダクト全体のコンセプトを決定し、プロダクトのフレームワーク(機能や視覚的なデザインの大枠)を定義する。
フレームワークを考える際には、「データ要素」と「機能的要素」を抽出する必要がある。例えば、ATM取引システムを開発する際は、「データ要素」と「機能的要素」は下記の通りである。
例)ATM取引システムのフレームワーク定義
データ要素 | 氏名や銀行口座などのユーザー情報や、入金/出金情報などの行動データ |
機能的要素 | 「他者の口座に入金する」や「自分の口座から預金を引き出す」などの
具体的な行動 |
5. 設計
画面の詳細なデザインを行う。ユーザーが一目で理解できるようにアフォーダンスを組み込み、適切に段階的開示できるように、ボタンの配置や画面レイアウト、文言などを決定する。
6. 開発
設計工程で決定したデザイン通りにコーディングを行う。しかし、技術的難易度や納期による影響で、設計通りの開発ができない場合がある。その際は、仕様の難易度を下げたり、納期を延長することで、開発がスムーズに行えるように工夫する必要がある。
目標主導型設計では最初の調査が肝心
従来の開発は、組織内の考えを元に機能を決定したり、ユーザーの利用方法を推測することが多かった。しかし、プロダクトの評価を決めるのは市場であり、ユーザーである。そのため、目標主導型設計では最初の調査で適切な市場ニーズを把握することが肝心だ。
ユーザー視点で開発を進めることで、ユーザー(=市場)が真に求めているプロダクトを開発することができる。