ゼネラル・エレクトリック(GE)の元最高経営責任者であるジャック・ウェルチの「ビジネスはスピードが命」という名言に代表されるように、ビジネスにおけるスピードの重要性は長く説かれている。
昨今はインターネットの普及により多くの情報が流通するようになり、市場や顧客ニーズの変化が激しくなった。そのため、物事を進める速さ(スピード)とは異なり、変化に対応できる機敏性、すなわちアジリティが求められる世の中となっている。
なお、システム開発において頻繁に使われる「アジャイル」はアジリティの形容詞である。
組織においてアジリティの高さは重要である
従来のウォーターフォール開発のように、当初の計画を丁寧に実行するだけでは、市場や顧客ニーズの変化に対応することは困難である。
UXデザインにおいても様々な場面で意思決定が行われる。ユーザーリサーチの結果、当初立てた仮説が間違いだと発覚することも珍しくない。その際には、当初の方針に固執せず、新たな方針を打ち立てる必要がある。
組織が意思決定のスピードや方針の変更、役割分担のフレキシビリティを含めたアジリティの高さを発揮し、どこに対して経営資源を投下すべきか即座に判断することで、目まぐるしい社会の変化に柔軟な対応ができる。
”現状維持バイアス”が最大の敵
アジリティが低い組織に共通している事象の一つに、改善に向けた取り組みの動きが遅いことが挙げられる。
改善に向けた動きが遅くなる理由として、現状維持バイアスやプロスペクト理論が作用するためである。人間の心理における一般的な傾向として、変化に伴って未知の事象や不確定な結果が生じると感じた際に、変化に対して非常に否定的な見方をする。人は「全てを把握している」という安心感を抱ける状態が一番心地よい。
しかし、安心感のある現状維持バイアスがかかっている状態では、改善の結果生じる利益より、改善によって生じる変化や不確実性を恐れるため、現状被っている不利益に目を瞑り続けることになってしまう。
アジリティを高めるためには共通認識が必要不可欠
単純に「アジリティを高めよう」と言っているだけでは成果は出ない。組織のアジリティを高めるためには、判断や行動の軸となる共通認識が必要である。
UXデザインでも例に漏れず共通認識は重要視される。UXデザイン手法として有名なペルソナやストーリーボードはユーザーに対する製作者たちの共通認識を作り上げる点で効果がある。また、組織が共通認識を抱けるように、企業活動ではミッションを掲げる必要がある。
全員が共通のゴールを認識して初めて、適時適切な判断のもと全員が主体的に行動できるようになる。