高いパフォーマンスを出す人に共通している行動特性で、具体的な行動で定義される。広く使われている知能テストや適性テストでは、優秀な人材かどうか正確に判断できない。そのため、人材の能力を正確に見極めるためには、コンピテンシーを重視する。
コンピテンシー研究の始まりは、ハーバード大学の心理学者であるDavid McClelland教授が実施した人材選抜の調査である。マクレランド教授は若手外交官を選抜する最適な方法を研究し、高い業績をあげる人材に共通する行動特性を発見した。
コンピテンシーは職種や役割ごとに変化する。例えば、マネージャーは「チームメンバーの意見を聞き、時間をかけてメンバーの意図を理解するように取り組む」というコンピテンシーが求められる。一方、メンバーは「他者の意見を受け入れて、建設的な議論ができる」というコンピテンシーが求められる。
評価や人材育成、採用面接で活用されることが多く、コンピテンシーに沿って評価する面接をコンピテンシー面接またはコンピテンシー採用と呼ぶ。自社のコンピテンシーを満たしているか判断するため、候補者全員に同じインタビューを行い、回答内容を分析する。
知能や適正ではなく行動特性を
見極めることが重要
仕事で高い業績を出す人物を見極めるためには、知能テストや適性テストでは不十分である。マクレランド教授がコンピテンシーの重要性を論文と実証研究によって明らかにした。
マクレランド教授は1973年1月にAmerican Psychologistで論文「Testing for Competence Rather Than for Intelligence(知能よりもコンピテンシーを評価する)」を発表した。論文では「人の能力を測る上で、広く使われている知能テストや適性テストでは、不十分である。より正確に仕事で成功する可能性を見極めるためには、コンピテンシーを重視する必要がある」と述べた。
論文を発表したのちに、マクレランド教授は米国務省から依頼を受けて、人材を選抜する上でコンピテンシーが重要であることを実証するための研究を実施した。高い業績をあげている外交官を対象に、インタビューやアセスメントを行い、ハイパフォーマーに共通する行動特性を明らかにした。
調査の結果、高い業績をあげる外交官に共通するのは、以下の3点であるとわかった。
- 異なる文化に対して豊かな感受性を持ち、良好な対人関係を作り上げる
- 相手の挑発的な態度や行動に振り回されず、自制心を持って対応して建設的な関係性を維持する
- 政治的な人脈を素早く作り上げる
知能や適性ではなく、コンピテンシーによって人材を見極めることで、主観によって評価が変わるリスクを減らせる。
コンピテンシーは人材を選抜した後の育成にも活用できる。業績を上げるための行動が具体的に示されているため、周囲のメンバーが同じ行動を取りやすくなる。組織では、役割に応じたコンピテンシーを発揮することで、高い業績をあげることができる。
職種や役割に応じて求められる
コンピテンシーは異なる
コンピテンシーは組織全体で共通するものと、職種や役割に応じて変化するものがある。世界保健機構(WHO)が定めているWHO Global Competency Modelでは、WHO内における職種や役割別に3つのカテゴリーを設けている。それぞれのコンピテンシーに対して「適切な行い」と「不適切な行い」を定義している。
全ての職種・役割に求められる行動特性
カテゴリ2.マネジメントコンピテンシー…
管理職に求められる行動特性
カテゴリ3.リーダーシップコンピテンシー…
リーダーの役割を持つ人に求められる行動特性
三重県立看護大学がWHO Global Competency Modelを翻訳した論文「WHOグローバルコンピテンシーモデル」から一部抜粋して紹介する。
コアコンピテンシー
全ての職種・役割に求められる行動特性
確実で有効な方法でコミュニケーションを行う |
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定義:課題や目標の達成に向けてスタッフを導き、動機づけること。全ての段階で求められる成果を出すことを自らやり甲斐を感じて責任をもって行うこと |
適切な行い |
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不適切な行い |
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(WHOグローバルコンピテンシーモデルより引用)
マネジメントコンピテンシー
管理職に求められる行動特性
エンパワメント的で、やる気の高まった状況を作り出す |
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定義:人々との会話や相互関係の上で、明確に自己表現でき、傾聴できる。また文章でのコミュニケーションもうまくできる。それによって情報の共有を確実にすることができること |
適切な行い |
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不適切な行い |
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(WHOグローバルコンピテンシーモデルより引用)
リーダーシップコンピテンシー
リーダーの役割を持つ人に求められる行動特性
WHOを将来的な成功へ推し進める |
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定義:健康課題や活動がより複雑になってきていることを、広く理解していること。目標を分かち合う魅力的なビジョンを創り上げ、人々の健康改善に向けた現実的な前進をうまく実現するための筋道を立てること |
適切な行い |
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不適切な行い |
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(WHOグローバルコンピテンシーモデルより引用)
コンピテンシーを見極めるために
構造化インタビューを用いる
採用面接で、候補者がコンピテンシーを有しているか見極めるために、特定の状況や課題において、過去の経験でどのように行動したか確認する。AmazonやGoogleでは構造化インタビューの形式を取り、面接の質問内容や評価基準を統一している。統一することで、面接官のバイアスに左右されずにコンピテンシーを有しているか確認できる。
Amazonでは行動ベースで
過去の経験を評価している
Amazonの採用サイトでは、面接の中で行う質問を一部紹介している。以下が質問例である。過去の経験について質問することで、コンピテンシーの有無を確認している。
- 過去に問題に直面し、数多くのソリューションを見い出した経験について教えてください。どのような問題で、どのように行動方針を決めましたか? その際にとった行動により、どのような成果が現れましたか?
- どのようなときにリスクを負ったり、過ちを犯したり、失敗したか、教えてください。 どのように扱い、またその経験からどのように成長しましたか?
- プロジェクトでリーダーとして活動したときの事を教えてください。
- 過去に、同じグループのメンバーのモチベーションを上げたり、特定のプロジェクトで共同作業を推進したりしなければならないときには、あなたはどのようにしましたか?
- どのようにデータを使い、戦略を立てましたか?
(Amazon 対面面談より引用)
Googleはバイアスをさけるために
評価基準を作成している
Googleでは評価基準を作成し、全ての面接官に共有することで、評価の一貫性を保っている。以下はGoogleが提供している評価基準例の一部の引用である。例えば、水中用の籠編み職人を採用する場合、材料の使い方に関する回答の評価基準は以下のようになる。
評価項目 / 判定 |
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材料の使い方 |
非常に良い |
課題の計画段階で、材料の効率的な使用についてしっかり検討されていた。そのための目標を設定し、籠作りの計画に画期的な手法を取り入れていた。また、計画を定期的に見直し、さらに効率を高める可能性を模索していた。それぞれの材料の品質を把握し、籠に求められる用途にどのように関係するかを理解していた。使わずに廃棄された材料もほとんどなかった。 |
良い |
課題取り組みの計画段階で、材料の効率的な使用について明らかに検討されていた。材料の選定段階では節約することが考慮されていた。籠の用途に合わせて適切な材料を選定し、各課題完了後に出た廃棄材料も非常に少なかった。 |
普通 |
材料を効率的に使おうとする配慮は見られたが、籠作り全体を効率的に行うための具体的な戦略を欠いていた。材料選定の重要性は認識していたが、その判断に誤りがあった。 |
悪い |
材料を効率的に使おうとする配慮に欠け、無駄使いしていた、または材料が足りなくなった。課題に対して適切な材料を選ぶことができなかった。 |
(Google re:Work – ガイド: 構造化面接を実施するより引用)
質問内容と評価基準を統一することで、面接官のバイアスがかからないようにしている。面接時に陥ってしまうバイアスとして、ハロー効果と確証バイアスがある。
ハロー効果とは、一つの優れた能力につられて、他の能力も高いと思い込んでしまう現象である。候補者が高い学歴を持っているために、直接関係しない仕事の能力も高いと考えてしまう。評価基準を統一しておけば、ハロー効果を防いで平等に評価することができる。
確証バイアスとは、自分の仮説や考えを支持する情報ばかり集めてしまい、仮説に反する情報を無意識に避けてしまう現象である。第一印象で優秀だと思った時に、候補者が優秀であるという根拠を集めるための質問だけしてしまう。質問内容を統一しておけば、確証バイアスを防いで同じ観点で候補者を評価することができる。
質問内容と評価基準を統一しておけば、バイアスに陥らずに候補者を平等に評価することができる。
関連用語
参考サイト
- Google re:Work – ガイド: 構造化面接を実施する
- 【グローバル人事管理の眼と心(24)】職務能力評価の変遷とコンピテンシー・モデル(その2)~コンピテンシーの源流:マクレランドとボヤティズ| 株式会社リンクグローバルソリューション
- 対面面接 | Amazon.jobs
参考文献
- 佐甲 隆, 野呂 千鶴子, 伊藤 薫(2007)「三重県立看護大学紀要」『WHOグローバルコンピテンシーモデル』11巻11号 pp93 – 99 三重県立看護大学研究・紀要委員会