前後の文脈や置かれている状況によって、認識する意味が変化することを文脈(コンテキスト)効果という。
人間は感覚器官から情報を得ると、それまで蓄積した経験や知識を元にそれが何であるかを認識する。
例えば文字の場合、線分や輪郭の組み合わせからパターンに当てはめて「何の文字か」を判断しており、手書き文字のように形や傾きが若干違っても柔軟に対応できる。
しかし、実際に情報を認識する際はパターン認識だけではうまくいかないことがある。下の文字は「A」にも「H」にも見える不完全な形であり、単体では何の文字かを断定することはできない。
下図のように単語にしてみると、左から2文字目は「A」右から2文字目は「H」と認識できる。周りの文字やすでに知っている単語で、不完全な文字を補完しているのである。
文脈効果はアメリカ合衆国の認知心理学者 Jerome Bruner氏が1955年に「Journal of General Psychology」で発表した論文が元であると言われている。
ブルーナー氏の実験
ブルーナー氏はタキストスコープ(※)を使って「同じ形でも先行刺激によって見え方が異なる」ことを検証した。
※瞬間露出器。 図形・文字などの視覚的刺激を瞬間的に与える装置。
3つのグループに対し、先行刺激として異なる文字や数字を見せてから、下図のように「B」とも「13」とも取れる画像が何に見えるかを質問した。
実験は数回行い、最初に画像を見せる時間は30ミリ秒で、回数を増やすごとに20ミリ秒ずつ増やし、最大150ミリ秒まで増やした。
3つのグループに対して最初に見せた画像は以下のとおり。
- 「L, M, Y, A」という文字を見せる
- 「16,17,10,12」という数字を見せる
- 「M,10,16,Y」のように文字と数字が混ざったものを見せる(順番や表示する文字・数字はランダムに選出)
その結果、1のグループでは「B」に見えると回答した人が多かったのに対し、2のグループでは「13」と回答した人が多かった。
特に、表示時間が短い場合(およそ70ミリ秒以下)の結果が顕著で、グループ1で「13」に見えた人が83%、グループ2で「B」に見えた人が92%だった。一方、グループ3で「Bまたは13」に見えた人は少なく、表示時間が短い場合でも21%にとどまった。
ユーザーは文脈で意味を理解する
文字の認識に限らず、同じ事柄でも受け取る人の状況や属性といった文脈(コンテキスト)によって受け取る意味が異なる。
例えば「かいとうして下さい」と言われた場合、台所にいる時は「食材を解凍する」と判断し、試験会場にいる時は「テストの問題を解答する」と判断するだろう。
試験会場にいて「食材を解凍する」と判断する人はあまりいない。
また、色や音といった要素も先行刺激になる。Dropboxのアイコンとゴミ箱アイコンは、機能やアイコン文字は異なるが、色と形が似ているため、ゴミ箱が普段ある位置にDropboxがあると取り違えてしまうことがある。
ミスを誘発しないUXを設計するためにも、ユーザーは「状況や前後の文脈で事柄の意味を理解する」ことを意識する必要がある。
関連用語
- プライミング効果
- ハロー効果
- 利用可能性ヒューリスティック
- 代表性ヒューリスティック
参考文献
- Bruner, J.S. & Minturn, A.L.(1955)Perceptual identification and perceptual organisation. Journal of General Psychology 53 , 21-28.
- 服部雅史、小島治幸、北神慎司(2015)基礎から学ぶ認知心理学、160−161
- ダニエル・カーネマン、村井章子(訳)(2012)ファスト&スロー(上)144-146