サービスの満足・不満足を決定づける重要な出来事(Critical Incident クリティカル・インシデント)についてユーザーに質問し、プロセスや原因を特定する定性的な調査方法である。
重大な出来事を実際に経験した人にヒアリングするため、重要なデータを豊富に手に入れることができる。
John C Flanaganが1954年に発表したものである。
フラナガンは第二次世界大戦中に陸軍において航空心理に関する調査をおこない、それがクリティカル・インシデント法の元になった。
クリティカル・インシデント法は満足・不満足に直接的につながる場面を調査できるため、ユーザーインタビュー・アンケート・フォーカスグループにおいて有効に利用されている。
調査実施の5つのステップ
クリティカル・インシデント法による調査は、5つのステップで実施される。
1.目的を明確にする
2.計画を立てる
3.データを集める
4.データを分析する
5.調査結果を解釈し共有する
1.目的を明確にする
調査の目的を明確に設定する。
この段階で調査内容に詳しい専門家に参加してもらうことも有用である。
2.計画を立てる
調査を通じて評価するべき重要な出来事(インシデント)を定義する。
誰を被験者として、どのように集めるかも決定する。
必要な質問も考える。
3.データを集める
インタビューやアンケートを通じてデータを収集する。
新しいインシデントが出てこなくなるまで、データの収集を続ける。
録画・録音に残らない被験者の雰囲気など重要な部分はメモにとっておく。
ただしあくまでユーザー自身の経験や感情に基づくものになるため、バイアスがかかっていたり、正確性に欠ける可能性があることを認識しておく必要がある。
4.データを分析する
録画・録音したものを記憶が新しいうちに見直し、集めたデータから重要な部分を洗い出す。
インシデントを一覧にまとめる。
5.調査結果を解釈し共有する
インシデントをカテゴライズし分析する。
最後にテキスト・グラフ・テーブルなどを使ってデータや分析結果を共有する。
調査後に対応策を出す
調査を経た後に以下の観点を踏まえて、実現可能な対応策を出す。
・原因
何をきっかけに、インシデントが発生したのか。
・ユーザーの行動
インシデントが発生している状況で、ユーザーはどのような行動をとったのか。
・ユーザーの感情
インシデントの間、及びその後にユーザーは何を感じたのか。
・実際の結果
インシデントの後に、ユーザーの行動は変化したのか。
・望ましい結果
今後はどのような結果になると良いのか。
UXにおけるクリティカル・インシデント法
クリティカル・インシデント法は主にユーザーインタビュー・アンケート・フォーカスグループにおいて利用される。
ポジティブな場面とネガティブな場面は同時ではなく、順番に尋ねる。
建設的にインタビューを進めるため、ポジティブな場面からおこなうことが一般的である。
以下にクリティカル・インシデント法を使ったインタビューの流れを例示する。
(引用:The Critical Incident Technique in UX)
具体的な質問例 | 質問の意図 |
---|---|
これからの一連の質問では、あなたの仕事で、このツールを利用する場面に焦点を絞って答えてください。 | まずインタビューの焦点を説明する |
●このツールを使って、どのようなことをおこなっていますか? ●このツールはどれくらいの頻度で利用していますか? ●このツールはどんな時に利用していますか? |
ツールの使用状況を確認する |
このツールを使って仕事で効果があった特定の状況を教えてください。 | クリティカル・インシデントの質問(ポジティブ) |
●その時どんなタスクをおこなっていましたか? ●なぜこのツールを選択したのですか? ●このツールはどのように役に立ちましたか? |
クリティカル・インシデントの内容をさらに明確にする質問 |
このツールを使って役に立った場面は他にもありましたか? | ポジティブなインシデントをさらに聞き出す |
今度は逆に、このツールを使ったけれども、問題の解決につながらなかった場面を教えてください。 | クリティカル・インシデントの質問(ネガティブ) |
●その時どんなタスクをおこなっていましたか? ●なぜこのツールを選択したのですか? ●このツールはどうして役に立たなかったのですか? |
クリティカル・インシデントの内容をさらに明確にする質問 |
このツールを使ったけれども、役に立たなかった場面は他にもありましたか? | ネガティブなインシデントをさらに聞き出す |
クリティカル・インシデント法のメリットとデメリット
メリット
・フレームワークにあてはめず自由に質問・データ収集できる柔軟さがある。
・ユーザー視点でのデータを集めることができる。
・通常の使い方にのみ焦点を当てていると、見過ごされてしまうようなインシデントも集められる。
・原因や重要度の特定が難しいインシデントの分析ができる。
・システムの特に脆弱な部分を見分けることができる。
デメリット
・インタビューやアンケートでおこなうので、ユーザーが覚えていることに限定される。
・ユーザーが真実を話していることが前提となるので、不正確な可能性がある。
・最近起こったインシデントの方が思い出しやすいので、重大に感じやすいというバイアスがかかってしまう。
・インシデントに基づくため、多くのユーザーが体験するような典型的な利用方法は調査できない。
・重大でない、日常的な出来事の分析には効果がない。