個人の経験にもとづく出来事や事象に関する記憶、例えば、証人が事件について思い出そうとする記憶をエピソード記憶という。エピソード記憶は長期記憶のうち、意識して思い出す顕在記憶に分類される。
なお、一般的な知識に関する記憶は、意味記憶と呼ばれる。
エピソード記憶は、カナダの心理学者、Endel Tulving氏が1972年に提唱した。タルヴィング氏は「エピソード記憶はいつ、どんな場所で起こったかということを特定できる記憶」と定義している。
経験と事象を無意識に記憶する
エピソード記憶は、出来事が発生した順番にストーリー仕立てで覚えるという特徴がある。
印象に残った経験は無意識に記憶している。例えば、「緊張でガチガチになって入学試験を受けた」という経験を何年経っても忘れないことがあげられる。
経験そのものに加えて、場所や時間、自分の感情や身体の状態を記憶するのもエピソード記憶の特徴である。入学試験に行くまでの電車内の様子や、会場までの廊下を歩いたことなど、思いだそうとすると意外と覚えているものである。
同じように「初めてのデートで春のディズニーランドへ行き、スプラッシュマウンテンに乗って楽しかった」という出来事が、「初めてデートをした」という経験、「春」という季節、「ディズニーランド」という場所、「スプラッシュマウンテン」というアトラクション名、「楽しかった」という感情が合わさって記憶されている。
デートの記憶を思い出す時には、季節や場所などの情報が手がかりとなる。「春」というキーワードから「初めてのデートでディズニーランドへ行った」「そこで乗ったスプラッシュマウンテンが楽しかった」という一連の出来事を思い出すことができる。年号や漢字などの一般的な知識を覚えるときのように、繰り返し覚えることはない。
エピソード記憶の性質を使うと、効率的に覚えられる
年号や漢字、地名のような一般的な知識を記憶するには、何度も書いたり口に出して唱えたりするなど繰り返すことが必要である。
効率よく記憶する方法の一つとして、ストーリーを付与して覚える方法がある。
例えば、「かんぺき」を漢字で書く時、「完璧」ではなく「完壁」と間違えてしまうことがある。「玉のように立派だからかんぺき、かべではない」というように、ストーリーを添えて覚えると、漢字を間違えなくなる。
意味記憶との違い
長期記憶には、エピソード記憶のほかに意味記憶があり、エピソード記憶と意味記憶では、記憶する内容や覚え方などに違いがある。
エピソード記憶は、「去年の春に、ディズニーランドで初めてのデートをして楽しかった」といった、個人が経験した出来事や場所、時間を一度で覚える記憶である。意味記憶は、「ディズニーランドは千葉県にある」のように、一般的な知識を何度も繰り返して覚える記憶である。
エピソード記憶と意味記憶の区別については、研究者によっても見解が異なっており、エピソード記憶と意味記憶の区別に否定的な意見もある。
関連用語
参考文献
- 太田信夫 多鹿秀継、(2000)、記憶研究の最前線、45-67
- 山内光哉 春木豊、(2001)、グラフィック学習心理学、241-247