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How Might We

課題を『どうすれば私たちは〜できるか』と問い直し発想を広げる

新商品の売上が伸び悩んだとき、チームはつい「競合と同じ機能をどう載せるか」と考えてしまう。けれど、その問いの立て方そのものが選択肢を狭めていることは少なくない。問いを少し変えるだけで、見えてくる打ち手はまるで違ってくる。How Might Weとは、目の前の課題を「どうすれば私たちは〜できるだろうか」という前向きな問いに置き換え、チームの発想を一気に広げるための問いの立て方である。

課題を問いに変えてアイデアを広げる3段の流れ図

課題を「どうすれば?」と問い直し、アイデアを広げる流れ

How Might Weが発想を解き放つ

How Might We(しばしばHMWと略す)は、課題やユーザーの悩みを「How might we〜?(どうすれば私たちは〜できるだろうか)」という形の問いに書き換える手法を指す。ブレインストーミングの直前に使い、チームが幅広いアイデアを出せる土台をつくる。

この問いが効くのは、たった3語がそれぞれ違う働きを担うからである。「How(どうすれば)」は、解決策を探そうという姿勢を引き出す。「Might(〜できるだろうか)」は、「正解はひとつではない」という含みを持たせ、間違いを恐れずに案を出してよい空気をつくる。「We(私たち)」は、これがひとりの仕事ではなくチーム全員で取り組む課題だと示す。

3語の働きを整理すると、次のようになる。

  • How(どうすれば):解決策を探そうという前向きな姿勢を引き出す
  • Might(〜できるだろうか):正解はひとつではないと示し、間違いを恐れずに案を出せる空気をつくる
  • We(私たち):ひとりではなくチーム全員で取り組む課題だと位置づける

語源・提唱者

How Might Weのルーツは、1950年代にAlexアレックス OsbornオズボーンSidneyシドニー Parnesパーンズが体系化した創造的問題解決(Creative Problem Solving, CPS)にさかのぼる。

この発想法を、ビジネスコンサルタントのMinミン Basadurバサドゥールが1970年代初頭にP&Gの商品開発チームへ持ち込んだ。当時のチームは、コルゲート・パルモリーブの人気石鹸「アイリッシュスプリング」に対抗しようと、緑色のストライプ入り石鹸の模倣品を何種類も試作していた。しかし、どれも本家を超えられずにいた。バサドゥールは「チームは問いを間違えている」と見抜き、より野心的なHow Might Weの問いを立てさせたという。彼は、否定的な状況を肯定的な問いへ転換することこそ問題定義のコツだと気づいたのである。

ミン・バサドゥール(Min Basadur)

「How Might We」を広めたミン・バサドゥール(Min Basadur)/出典: https://www.basadur.com/about-us/

その後、バサドゥールがCharlesチャールズ Warrenウォーレンへこの考え方を伝え、ウォーレンがIDEOへ移ってパートナーのTimティム Brownブラウンに紹介した。IDEOはこれを取り入れ、すべてのプロジェクトをHow Might Weから始めるようデザイナーを訓練した。やがてIDEOとスタンフォード大学d.schoolが広めたことで、How Might Weはデザイン思考を代表する手法として定着した。

解決すべき困難な課題に必要なアイデアを生み出す

How Might Weは、答えがすでに見えている課題や、手順が決まった作業には必要ない。答えが一つに定まらず、立ち止まって考えないと筋の良い解にたどり着けない、一筋縄ではいかない課題に向き合うときに活用できる。

「なぜユーザーが定着しないのか」「どうすれば現場の負担が減るのか」のように、原因も打ち手も一通りではない問いがその典型といえる。UXリサーチの第一人者として知られるニールセン・ノーマン・グループ(NN/g)のMariaマリア Rosalaロサラは、は、目先の症状を手当てするのではなく、その奥にある根本の課題を解くべきだと説く。そして、根本の課題ほど答えは簡単に見つからず、意識してアイデアを広げなければ突破できない。だからこそ、こうした難しい課題にHow Might Weが活用できる。

すぐ解決策を決めたくなる理由

人は課題を前にすると、気づかぬうちに発想の幅を狭めてしまう。その大きな原因は、課題そのものより先に「具体的な手段」が頭に浮かび、そこへ飛びついてしまう点にある。答えの見えない課題に向き合い続けるのは落ち着かない。そのため人は、過去にうまくいったやり方や、よく耳にする手段など、すぐに思いつく具体策へ手を伸ばしたくなる。

たとえば「とりあえずアプリを作ればいい」「最近はやりのAIを入れれば解決する」「他社のキャンペーンを真似よう」といった案が、問題を見極める前に口をついて出る。手段は具体的で、動き出した手応えを得やすいぶん、いったん浮かぶと検討の中心に居座りやすい。

ロサラは、こうして各自が抱え込んだ手段を持論の解決策(pet solutions)と呼ぶ。本当の問題を十分に見つめないまま手段を語り始めると、議論は数少ない手持ちの案に縛られ、最初から狭い枠に閉じてしまう。

難しい課題ほど手段に飛びつき視野が狭まる3段の図

難しい課題ほど手段に飛びつき、視野が狭まって他の案を見落とす

つまり、思考が狭くなるのは能力の問題ではなく、問いの立て方の問題である。

良い問いを書く5つのコツ

ロサラは、良いHow Might Weを書くための5つのコツを挙げている。どれも、悪い例と良い例を並べると違いがはっきりする。

調査で見つけた事実を起点にする

調査で発見したインサイトをもとに問いを立てるとよい。たとえば調査によって「ユーザーが全商品ラインナップに気づいていない」とわかれば、その事実を起点に問いを立てる。一般論から始めると、調査結果と関係のない思いつきしか出てこない。

区分 問い
悪い例(一般論) どうすれば私たちは、プロダクトの体験を良くできるか
良い例(事実起点) どうすれば私たちは、全商品ラインナップの認知を高められるか

問いに解決策を埋め込まない

問いに手段を忍ばせると、答えがその手段の周辺だけに偏ってしまう。望む状態だけを問い、手段は開いておく。そうすれば、申告そのものを自動化するような別の道も視野に入る。

区分 問い
悪い例(解決策入り) どうすれば私たちは、どの申告書を使うか伝えられるか
良い例(手段を開く) どうすれば私たちは、ユーザーが正しく申告できていると安心できるようにするか

的を絞りすぎず、広めに保つ

たとえば「正式書類の決裁に時間がかかる」という課題で考えてみる。狭すぎる問いは、答えをひとつの手段(たとえば二重チェックの廃止)だけに縛り、発想の余地を消す。逆に広すぎる問いは焦点を失わせ、かえってアイデアが出てこない。

ちょうど良い高さは、NN/gのロサラが挙げる2つの問いで確かめるとよい。ひとつめは「調査で見つけたインサイトに紐づいているか」で、紐づいていれば広がりすぎを防げる。ふたつめは「ユーザーが本当に得たい成果を指し、特定の手段を含んでいないか」で、満たせば狭すぎを防げる。

広さ 問い
狭すぎ どうすれば私たちは、二重チェックをなくせるか
ちょうど良い どうすれば私たちは、正確さを保ったまま決裁を速くできるか
広すぎ どうすれば私たちは、承認プロセス全体を作り直せるか

症状ではなく、望む成果に目を向ける

目先の症状を抑えにいくと、後ろ向きの案に流れてしまう。本当に達成したい状態を問えば、前向きなアイデアが出てくる。

区分 問い
悪い例(症状) どうすれば私たちは、問い合わせの電話を止められるか
良い例(成果) どうすれば私たちは、ユーザーが必要な情報をすべて持っていると安心できるようにするか

前向きな言葉で表現する

「減らす」「なくす」と後ろ向きに問うより、「高める」「生み出す」と前向きに問うほうが、人は自由にアイデアを出しやすい。

区分 問い
悪い例(後ろ向き) どうすれば私たちは、返品の難しさを減らせるか
良い例(前向き) どうすれば私たちは、返品をすばやく直感的にできるか

最初から完璧な問いは出ない。複数の案を書き出し、チームで見比べながら、もっとも筋の良い一文へ絞り込んでいくとよい。

思考を広げる観点

ひとつの課題から複数の問いを引き出すとき、スタンフォード大学d.schoolが公開する「How Might Weワークシート」の観点が役に立つ。同じ課題でも、当てる観点を変えると問いの向かう先がまるで違ってくる。ワークシートは次の7つの観点を挙げている。

観点 使い方と問いの例
良い点を増幅する うまくいっている要素を伸ばす。
例: どうすれば私たちは、開封時のワクワク感をさらに高められるか
感情に焦点を当てる ユーザーの気持ちを起点にする。
例: どうすれば私たちは、初めて使う人の不安を安心に変えられるか
極端に振る あえて振り切った状況を想像する。
例: どうすれば私たちは、待ち時間を完全になくせるか
逆を探る 反対の状況を想像する。
例: どうすれば私たちは、待ち時間を一番の楽しみに変えられるか
前提を疑う 当たり前の条件を外す。
例: どうすれば私たちは、店舗を持たずに接客できるか
類推をつくる インサイトや文脈を別のものに置き換える。
例: セラピーのように、どうすれば私たちは買い物を心のほぐれる時間にできるか
ひとつの要素に絞り込む 課題の一部分だけを取り出す。
例: どうすれば私たちは、入力欄の数を減らせるか

すべての観点を毎回使う必要はない。課題の性質に合わせて2〜3個を選び、出てきた問いを見比べながら筋の良い一文へ絞り込んでいくとよい。

なお、d.schoolのDesign Thinking Bootleg(旧称 Bootcamp Bootleg)には、これ以外の観点も載っている。たとえば「形容詞に注目する」は、課題に含まれる『面倒な』『退屈な』といった言葉を手がかりに問いを立てる。「現状を変える」は、当たり前になっているやり方をあえてひっくり返して問う。

普段の会議や議論でも十分活用できる

How Might Weは、調査ワークショップだけの道具ではない。「どうしたら〜できるか」という問いの形は、普段の会議や打ち合わせでもそのまま使える。議論が行き詰まったときや、否定が飛び交い始めたときに一言投げ込むと、止まっていた場の空気が動き出す。

ありがちな場面 投げかけてみる問い
議論が膠着して、沈黙が続く どうしたら、この状況を一歩でも前に進められるか?
「それは難しい」「うちには無理」と否定が出る どうしたら、その難しさを乗り越えられるか?
「誰のせいか」と責任論になりかける どうしたら、次に同じ問題を防げるか?
「使いにくい」と抽象的な不満で止まる どうしたら、ユーザーが迷わず使えるようにできるか?

コツは、否定や原因探しで話が止まりそうな瞬間に、「どうしたら?」と前向きな問いへ言い換えることである。完璧な問いでなくてかまわない。それだけで、場の意識が「批判」から「アイデア出し」へ切り替わる。

行き詰まりに『どうしたら?』を投げてアイデアを引き出すビフォーアフター図

行き詰まりに「どうしたら?」を投げると、アイデアが出てくる

関連用語

ブレインストーミング

参考文献

BtoB人事業務アプリのコンサルタント→エンジニア→BtoCのWebディレクターを経て、再度BtoB業務アプリとなる物流プラットフォームのUIUXに挑戦。オンライン/オフライン双方でのBtoBUXを改善すべく奮闘中。

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