人は、対面や間接的に得た情報によって、相手の人物像をある程度具体的に作り上げる。
それは、服装やふるまい・表情などの見た目の情報をはじめ、性別・家族構成・職業・出会った場所など様々な要因で形成される。また、個人が持つバイアスからも影響を受ける。
例えば、スーツを着て清潔感のある装いだと営業マンに見えたり、メガネをかけて髭を生やし、ラフな服装だとエンジニアに見えたりする。
印象形成は、アメリカのゲシュタルト心理学者であるSolomon Eliot Aschが、1946年に提唱した。
特定の要素によって全体の印象が変化する
アッシュ氏は、ある人物に対して7つの形容詞を記載したリストを配布し、どのような印象を抱くかという実験を行った。
人が他者に与える特性には、全体の印象形成に大きな影響を与える「中心特性」と、さほど影響を与えない「周辺特性」の2つが存在していることがわかった。
グループ1には、「温かい」の中心特性と「知的な・器用な・勤勉な・決断力のある・実際的な・用心深い」の周辺特性のリストを渡した。もう一方のグループ2には中心特性の「冷たい」とグループ1と同様の周辺特性のリストを渡した。
リストで異なるのは、中心特性の「温かい」と「冷たい」であるが、グループ1は人物に対してポジティブな印象を持ち、グループ2はネガティブな印象を持つことが多かった。
中心特性 | 温かい・冷たい |
周辺特性 | 知的な・器用な・勤勉な・決断力のある・実際的な・用心深い |
アッシュ氏は、印象は個々の特性を積み上げて形成されるのではなく、取得した情報全体から特に重要な部分に着目し、それをもとに印象を形成すると結論付けた。
情報の順番によって印象が変化する
特性情報が多くある場合、最初に提示された特性が全体の印象に影響を与えることがある。それを「初頭効果」という。
同様の実験で、ある人物に対してネガティブな情報を最後に表示したグループと、最初に表示したグループで印象が変化するかを検証した。
グループ1には「知的な、勤勉な、衝動的な、批判的な、嫉妬深い」と最後に表示させ、グループ2には「嫉妬深い、批判的な、衝動的な、勤勉な、知的な」とはじめに表示した。
グループ1は、「欠点はあるけど、能力のある人」というポジティブな印象を持ち、グループ2は「能力はあるけど、欠点のせいで能力が発揮できない人」というネガティブな印象を持つことが多かった。与えられた情報の順番によって、印象形成が大きく変化したのである。
情報が置き換われば印象も変化する
最初に形成された印象は強く残る。しかし、後から別の情報に触れることでポジティブにもネガティブにも印象が変化することがある。
例えば、「最初は怖いと感じていた上司が、実は愛妻家で子煩悩な人だった」という場合。最初に感じた「怖いだけの上司」から、「仕事では怖いけど家族には優しい上司」という新しい印象が形成される。
情報の一面だけ見て鵜呑みにしない
見聞きした情報の一面だけを鵜呑みにすることは大変危険である。アッシュ氏の実験でもわかるように、表示順だけのような簡単なことで印象操作ができてしまう。
テレビで有名人が言っていたから、その分野の権威が言っていたから、仲のいい友達が言っていたからなどの二次、三次情報だけを鵜呑みにして判断をしないことが重要だ。ちなみに、鵜呑みにする人をステレオタイプと言う。ステレオタイプの様に、まるごと鵜呑みにするのではなく、自分自身の頭で考えることが大切だ。
すべてにおいてできるわけではないが、自身の専門分野では一次情報を探り、自分で判断する力を養い、情報を多角的に見る視点を身に着けていこう。