TOP UX用語 デザイン・情報設計 擬態

擬態 Mimicry

事物の特性を模倣し、利点を取り入れること

特徴的な点を真似て、事柄において恩恵を得ること。デザインにおいては、既存の問題解決策に動植物や人工物の外観やふるまいを取り入れることも指す。
見た目だけでなく、プロダクトやサービス開発の設計においても、事物の外観・行動・機能面の特性を模倣することで問題を解決することもできる。
例えば、エアコン室外機のプロペラファンに、アホウドリの翼の形状を取り入れたところ、20%もの消費電力の削減を達成した。

狭義の「擬態」

狭義の意味の擬態は、「動植物が他の動物や周囲の物に似た色・形などをもって攻撃・防御の手段とすること」である。例として、ライチョウが季節に応じて周囲の色に合わせて体色を変え、捕食者から身を守る行動がある。
ライチョウの擬態

デザインにおける「擬態」

広義での擬態は「他のものに様子や見た目を似せること」を指す。この点を踏まえると、擬態の利点は、デザインにも応用できる。
デザインにおける擬態とは「既存の問題解決策を模倣する手法」を指し、以下の3種類が存在する。

  • 外観の擬態
  • 行動の擬態
  • 機能の擬態

ぬいぐるみなどの見た目を真似た「外観の擬態」

事物の見た目を真似ること。
プロダクトを現実世界の事物の外観に似せることで、動物の擬態と同じような視覚効果を得られる。例えば、親しみやすさを感じさせたり、擬態したものに対する行動を誘発したりする。

事例:ぬいぐるみ

多くのぬいぐるみは、動物や人間といった生き物の見た目を模している。生き物の外観に擬態することで親しみが湧きやすくなり、「話し相手にする」「頭を撫でる」といった実際の生き物にするような行動を誘発させている。
犬のぬいぐるみ

人のまばたきなどの動きを真似た「行動の擬態」

事物の振る舞いを真似ること。
プロダクトに現実世界の事物の動きや振る舞いを真似させることで、同じ印象を与えたり、擬態したものに対してとる行動を誘発したりする。

事例:まばたきをするロボット


慶應義塾大学で開発されたコミュニケーションロボットでは、呼吸やまばたき、目の動きといった人間の行動を模倣した。人間の外観は模していないが、コミュニケーションテストを行ったところ、話し相手の満足度が向上したという。

鳥の翼などの働きを真似た「機能の擬態」

事物の働きや作用を真似ること。
プロダクトに現実世界の事物の機能性を取り入れることで、画期的な解決策となることがある。

事例:バイオミメティクスによる製品開発

生物が有する機能を製品開発に活用する企業が現れている。生物の観察や分析から得た着想をものづくりに活かす科学技術をバイオミメティクスという。こうした取り組みは生物の機能を製品に擬態させている「機能の擬態」として捉えられる。
バイオミメティクスを取り入れて、機能性や使い心地を大幅に改善した事例として、アホウドリの翼をプロペラファンに応用した室外機と、蚊の吸血を応用した注射針を紹介する。
シャープでは、エアコンの室外機のプロペラファンに、羽ばたかずに数千キロを滑空できるアホウドリの翼の形状を取り入れた。その結果、消費電力を一度の試作で20%削減することに成功した。従来の開発手法では3年かけても1%以下しか削減できておらず、画期的な取り組みだった。
医療の分野では、バイオミメティクスを取り入れた注射針の開発が行われている。従来の注射針は刺した時に痛みが強く、一日あたりの注射回数が多い糖尿病などの患者には特に負担がかかる状況だった。そこで注射針の開発に、刺されても痛みを感じない蚊の吸血の仕組みを応用した。刺されても痛くない蚊の針の形状を取り入れることで、痛みの軽減だけでなく止血にかかる時間の短縮も実現し、患者の負担を軽減できた。

バイオミメティクスを製品開発に取り入れた室外機・注射針の事例

バイオミメティクスの例
アホウドリの翼の形状を室外機のプロペラファンに、蚊の吸血の仕組みを注射針に応用することで、機能性や使い心地の改善を実現できている。

デジタルプロダクトにおける擬態の活用

動植物だけでなく、人工物が擬態のモデルとなることもある。特にWebサービスやアプリにおいては、人工物の擬態が頻繁に利用されている。
多くのプロダクトが人工物の擬態を用いる理由は、ユーザーがこれまでの経験をもとに直感的に操作方法を理解できるからである。ユーザーはメンタルモデルという、今までの経験から作られた「こうしたらこうなりそう」という予測を持っている。例えば「リンク」のような青色の下線が引かれた文字列を見た際に、「これはリンクだからクリックしたら別のページにジャンプしそう」と予測できるのはメンタルモデル形成によるものである。ユーザーのメンタルモデルを利用して、インターフェースを現実の事物に似せることでUIの操作性や分かりやすさを向上させるデザイン・設計手法が存在する。ここではそのうち2つの事例を紹介する。

現実を模倣したスキューモーフィズム

現実世界の外観やユーザーとのインタラクションを模倣する方法・装飾のことを「スキューモーフィズム」と呼ぶ。
スキューモーフィズムの代表例は「ゴミ箱」のアイコンである。破棄するファイルを入れる場所として分かりやすいモチーフを使っている。
macのゴミ箱アイコン
iPhoneでは、現実世界の事物の見た目を真似た(擬態した)アイコンやボタンを使用することで、ユーザーが取り扱いを理解しやすくしている。例えばモードの切り替えにおいて、ラジオボタンではなくスイッチの見た目を真似たスイッチコントロールを用いている。現実世界のスイッチと同じような動きが予測でき、「これを操作するとON(OFF)になりそうだ」と理解できる。
ラジオボタンとスイッチコントロールの印象の差異

光と影を取り入れたマテリアルデザイン

Googleが2014年に発表した新しい設計体系。UIに紙の重なりのような物質的な見え方やメタファーを与えて、現実世界とWeb/アプリをひと続きにすることを目的として作られた。
マテリアルデザインの特徴は「光と影」を模倣していることである。UI上のオブジェクトに、実際の物質と同じように斜め上から光が当たっているような影を表現し、影の大きさによってオブジェクトがどれだけ地から浮いているのか表現することが定められている。画像の例では影の大きさから、丸いボタンが一番上に浮いていることが分かりやすくなっている。

擬態を活用するメリット

擬態を活用するメリットには、ユーザーが直感的にデザインを理解できるようになり、問題解決の助けになることが挙げられる。
特に問題解決においては、擬態を用いることでデザインの検証や改善が短縮できるというメリットもある。実際に「機能の擬態」で挙げたエアコン室外機の例では、たった1回の試作で20%もの消費電力の削減を達成した。
解決したい問題がある場合は、同じ問題を解決できている自然界の事物や人工物が持つ「外観」「行動」「機能」を取り入れられないか検証すると良い。

参考書籍

  • ウィリアム・リドウェルほか, Design Rule Index 要点で学ぶ、デザインの法則150, 株式会社ビー・エヌ・エヌ新社, 2015年, p190

関連項目

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