記憶の多重貯蔵モデルの構造は、アトキンソンとシフリン(Atkinson and Shiffrin)によって1968年に提唱された。当初は、短期記憶と長期記憶による二重貯蔵モデルであったが、のちに感覚記憶のメカニズムが短期記憶から分離する「多重貯蔵モデル」と言われるようになった。
記憶の流れは一直線
3つの記憶は、下図のような段階で移動する。
短期記憶
感覚記憶で意識された情報は、短期記憶として保持される。しかし、その期間は15-30秒、容量は最大でも7±2(もしくは、3 or 4とも)と言われている。
例えば、この記憶は、電話番号を一時的に記憶するのに利用される。そのような場合、たいていは電話を掛け終わった後には忘れているだろう。そのくらいに短い期間しか保持されない。
この短期記憶は「リハーサル」を行うことによって、維持期間を伸ばしたり、長期記憶へと送られたりする。リハーサルとは、(主に思考的な)反復行為のことである。大きく分けると「維持リハーサル」と「精緻化リハーサル」の2種類がある。
維持リハーサルとは、短期記憶の維持期間を伸ばし、忘却を防ぐために行われる反復行為のことである。例えば、前述の電話番号を覚えるために何度もつぶやくといったようなことだ。
精緻化リハーサルとは、他の知識と結びつけや構造の理解によって反復する行為のことである。例えば、語呂合わせだったり、漢字を偏とつくり、冠とあしなどに分解をして書き方を覚えるなどである。維持リハーサルよりも長期記憶へ転送される確率が高くなる。
長期記憶
短期記憶から送られたもので、理論上、半永久的に上限なく蓄積される記憶のこと。いわゆる「記憶した」という段階に当たるもの。この段階に入ると、整理したり、検索したりなどの操作が可能となる。
情報を取り込むことを「記銘(符号化)」、それを保存することを「貯蔵」、その記憶を呼び起こすことを「想起」という。この「想起」が行えるのが長期記憶ということになる。
また、長期記憶は、「宣言的記憶」と「非宣言的記憶」に大別される。
宣言的記憶とは、その名の通り、言葉によって蓄積されている記憶のことである。その中でも、言葉の意味や数式など一般知識・常識や歴史的事実などに関する「意味記憶」と個人的な出来事に関する「エピソード記憶」に分けられる。
非宣言的記憶とは、言葉を使って表現できない動作や一連の手続きによって蓄積されている記憶のことである。自転車の乗り方など同じ経験を反復することによって形成される、いわゆる“身体が覚えている”という「手続き的記憶」などがこれに当たる。
感覚記憶
二重貯蔵モデルには短期記憶に含まれていた感覚記憶は、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の5つの感覚によって受け取った情報を、一時的に保持するための記憶。日常的に受け取る外部刺激の全てと捉えると分かりやすい。
これらを全て記憶していたら、とてつもない情報を蓄積することになる。そのため、感覚記憶の保持期間は、わずか0.25〜0.5秒といわれており、入っては消えてを繰り返している。その中で、必要であったり、関心があったりする情報のみが短期記憶へと送られると言うように別の貯蔵記憶とし、多重貯蔵モデルとも考えられている。
記憶とデジタルプロダクトとの関係
ウェブサイトやアプリなどデジタルプロダクトにおいて、よく取り上げられるのは「短期記憶」である。しかしながら、記憶のメカニズムにおけるフェーズすべて、無視することはできない。
例えば、UIを見てわずか0.5秒で必要か否か、好きか嫌いかなどを判断するのは「感覚記憶」である。スマートフォンの使い方などは「手続き的記憶」で保存される。また、提供するサービスなどにまつわる「エピソード記憶」を保有するユーザーも多くいるだろう。
記憶が人々の行動に深く関わるものでありながら、その内容は千差万別であることを考えると、UXデザインを用いて、それらを明示化していくことがいかに重要であるかが分かる。