ムーアの法則がもたらしたもの
ムーアの法則は「半導体の集積率が18か月で2倍になる」ということだ。トランジスタ(半導体の最小単位)で言うと「同じ面積に配置できるの数が18か月ごとに2倍になる」ということである。この方式に従うと、3年で4倍、4.5年で8倍、6年で32倍、15年で1024倍となる。
ムーアの法則には技術的な面とコスト的な面の効果がある。
技術的な効果
例として、半導体の集積率が2倍になった時のことを考えてみる。面積が同じであればトランジスタを2倍集積できる。半導体の性能は2倍になり、CPUのような半導体では1秒間にできる処理が2倍になる。
コスト的な効果
同じ数のトランジスタを集積する場合、必要な面積は半分である。ということは、同じ性能の半導体を作るコストが半分になるということである。
半導体業界は総力を挙げて、ムーアの法則を満足させるために技術革新を行っていた。それにより、かつては部屋全体分のコンピューターを駆使していた演算能力が、スマートフォン1台で可能になった。あらゆる産業が半導体産業と同じような進歩を遂げていたら、1ガロンのガソリンで太陽まで行き、1平方キロメートルの土地で世界の全人口を養い、光の速さの300倍で移動できただろう、と言われている。
一昔前は、高性能なスマートフォンを持っている人はいなかったが、現在は当たり前のように普及している。これはCPUの性能が向上し、かつコストが下がったためである。どれぐらい性能が上がったのか、というのを主なCPUにおけるトランジスタの数で比較してみると劇的に増加しているのが分かる。

主要なCPUにおけるトランジスタ数の推移(インテル社ホームページより)
マーケティングにおける効果
ムーアの法則にしたがって技術が飛躍的に発展したことが、マーケティングにも影響している。
IoTなどの新しい製品の登場と取得データの拡大
高性能で小型のCPUが低コストで生産可能になったため、時計のような小さな製品にも高性能なCPUを搭載できるようになった。さらに、IoTからはこれまでになかったデータ(リアルタイムの心拍数など)を取得することも可能になった。
データ分析能力の向上
取得したデータを解析するサーバーの性能も向上したため、大量の顧客購買データや顧客行動データを分析してマーケティング戦略立案に活用できるようになった。
ムーアの法則の終焉
米国半導体工業会(SIA)では、「2015年の半導体国際ロードマップ」と題するレポートで「ムーアの法則は2021年で終焉を迎える」と予測している。集積回路はムーアの法則に従って劇的に小型化しており、現在では約10nm(ナノメートル)いう精密さで作られている。
当然物質を無限に分割することはできず、いずれ原子の大きさという壁にぶつかる。集積回路が原子や素粒子からできていることを考えれば、いつかは限界が来る。その限界が2021年に訪れると予測されているが「3次元方向に回路を展開する」といったムーアの法則終焉の回避策もあるとも言われており議論されている。