行動経済学、とりわけ プロスペクト理論 において、人間が「客観的な確率」と「主観的に感じる確率」を一致させずに評価する傾向を数理的に表現したものである。
たとえば:
- 「1000回に1回当たる(0.1%)」と言われても、ほとんどの人は「ほぼゼロ」ではなく「もしかしたら当たるかも!」と強く感じる。
- 「99%成功する」と言われても、「1%の失敗が怖い」と感じ、確率以上にリスクを重く見積もる。
つまり、
- 客観的な確率 = 数字としての本当の確率(例:1%、99%)
- 主観的な確率 = 人が実際に感じる確率(例:1%を「10%くらいに感じる」)
すなわち、人間は 低い確率を実際よりも大きく見積もり、一方で 高い確率を実際よりも小さく見積もるという心理的特性を持つ。
宝くじのような「ほとんど当たらない確率」でも強く惹きつけられ、逆に「ほとんど確実に得られる確率」でも過小評価してしまうのである。
この「確率をそのままではなく、膨らませたり縮めたりして感じてしまう心のクセ」を、グラフや数式で表したのが確率加重関数である。
関係用語の提唱者
代表的な数式モデルには、カーネマン(Daniel Kahneman)とトヴェルスキー(Amos Tversky) によるプロスペクト理論の関数、および プレレック(Drazen Prelec, 1998) の逆S字型確率加重関数がある。
数式(プレレックの確率加重関数)
Prelecの関数:
w(p)=exp(−(−lnp)α),0<α<1
- pp = 客観的確率(例:0.1 = 10%)
- w(p)w(p) = 主観的に感じる確率
- α\alpha = パラメータ(人の「歪みの強さ」を調整する)
逆S字型確率加重関数のグラフ
デザイン上の利用方法と事例
確率加重関数の特性は、UXやプロダクトデザインに応用可能である。例えば以下のような場面で活用できる。
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ゲーミフィケーション:
ガチャやルーレットなどで「低確率でも当たるかもしれない」という体験を演出することで、継続利用を促す。ユーザーは1%の当たりを10%程度に感じやすい。 -
購買インセンティブ:
「購入者の中から抽選で1名に全額キャッシュバック」など、低確率の報酬を提示すると、確率以上に強い動機づけが生まれる。 -
リスク回避デザイン:
「99%安全」と表示するより「1%のリスクがある」と提示する方が過敏に反応される場合がある。この特性を理解し、ユーザーの不安を適切に抑えるメッセージ設計が求められる。
具体的事例
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宝くじアプリのデザイン
→ 「1000万人に1人の確率」より「あなたにも当たるかもしれない」と強調する方が、確率加重の特性を踏まえた効果的な表現である。 -
サブスクリプション解約抑止
→ 「解約すると割引クーポンが当たるチャンスを失います」と提示すると、低確率でもユーザーは大きく感じ、解約抑止に働く。 -
セキュリティ警告
→ 「1%の確率でデータが失われる」よりも「めったにないが大切なデータが失われる可能性がある」と表現すると、よりリスクを自覚させやすい。
関連用語